今日は3月14日。
ついに明日には退院できることが決まった。

あれから暇があれば、のぞみのところに行くようになった。逆に、彼女が俺の病室を訪ねてくることもあった。とはいえ、俺のリハビリやのぞみの検査があったりしたので、実際に会って話したのは出会いの日を含めて、4回ほどである。

ほとんど、いや全てと言っていいほど話す内容は大したものではなかった。あの俳優のどこがかっこいいだとか、この本が面白かったとか、本当に些細なこと。

しかし、それが俺にはとても楽しくて、病院内でそんなふうに思ったのは随分と久々に感じた。


そして、俺は今日、退院の支度をしている。
明日の朝には病院を出て、昼までには家に帰りたいので、早めに支度をしているのだ。

着替えや、漫画類、手持ちの荷物など、そこまで散らかしていたわけではないが、地味に物が多い。しかも、漫画を読み始めたらついつい読みすぎてしまい、俺は支度に随分と時間を掛けていた。


「ふぁ……おはよ、冬」

うっかりまた漫画に手が出てしまったところで、欠伸をしながら病室に入ってきたのは正晴だった。
ちなみに、おはようと言っているが、今はもう昼過ぎだ。

「はよ、正晴。寝不足か?」
「うん、ちょっとね。夜更かししちゃって」
「しっかり寝ろよ。体持たねーぞ」
「冬は、冬にたっぷり寝てるもんねぇ」

俺の心配に対して、むかつく返しをしてくるが、ここはスルーする。いちいちつっかかっていてはきりがない。

「……そうだな」
「ねぇ、退院明日でしょ。なにか手伝おっか?」

俺が心を穏やかにして、落ち着いて答えたのに、あっさりと話を変えられた。それはそれでむかつく。だが、正晴に手伝ってもらえると助かるので、表に出さずに頷いた。