「ねぇ、冬くんって何の季節が好き? やっぱり冬?」

俺がもうそろそろ帰ろうかな、と思った頃、のぞみがそう質問してきた。

きっと今までのように深い意味のない質問なのだろう。
それは分かっている。
それでも、その言葉は俺の心を抉るように襲いかかってきた。

俺は歪みそうになる顔を、何とか笑顔に変え、普通を装う。だが、それがしっかりと出来ているのかはわからなかった。

「……いや、冬はあんまり好きじゃない。むしろ嫌いな方かも。うーん、一番好きなのは春かな」

俺の返事にのぞみは微笑んでいる。
よかった、俺の変化には気づいていないようだ。

「実は私も冬って好きじゃないんだ。冬になると体調悪くなりやすいから」

長い前髪をいじりながら彼女が言った。
その発言に少しドキッとしてしまう。やっぱり似ているなと改めて感じた。


「ほんとに似てるね、私たち」

気のせいか嬉しそうにのぞみが言う。

「あ、ああ」

彼女には申し訳ないが、俺には笑顔でいることの限界がきていた。


「俺、もうそろそろ自分の病室に戻るわ」

俺がそう告げると、のぞみは少ししゅんとしたが、すぐに笑顔になった。

「ね、また今度遊びに来てよ!」
「おう。また来る」

俺はできるだけ満面の笑みを浮かべてそう答えた。

それから手を振って、のぞみの病室を出る。楽しかったはずなのに、モヤモヤした気持ちが心の中に残っていた。