「ごめん、名前呼び嫌だった?」

勘違いをさせてしまったようだ。申し訳なさそうな感じで、彼女が俺を覗き込む。俺は慌てて言った。

「違う違う。女子から名前呼びされること滅多にないから驚いただけ」
「そっかぁ」

彼女は納得したように微笑んでいる。優しいその笑みに心が安らいでいく気がした。

「じゃあ、冬くんにも私のこと、のぞみって呼んでほしいな」

少し照れたように言う彼女。なんだかその期待を裏切ることは出来なくて、俺は頷いた。

「わかった。よろしくな、のぞみ」

何でもないようにサラッと言ってみせる。本当は物凄く緊張していた。だが、それを表に出すのもかっこ悪いので何とか隠す。


「ね、冬くんって高校通ってるの?」

のぞみが急にそう聞いてきた。

日本で、俺たちと同じ年の子なら、高校に通っている子の方が多いだろう。しかし、敢えてどこの高校かではなく、高校に通ってくるのかを聞いてきたのだ。そのことから考えるに、彼女が高校に通っていない確率は高い。

「通ってないよ。のぞみは?」
「私も通ってないんだ」

思った通りだ。
入院している理由が怪我などの一時的なものならともかく、きっと彼女はそうではない。まだ細かいことを聞くようなことは出来ないが、それだけはわかった。