退院してから数日後、俺は正晴と駅で待ち合わせていた。今日は二人で出かける約束をしている。

「冬、ごめん……」

会って早々、正晴は申し訳なさそうな顔をして言った。謝罪の理由は聞くまでもない。朝見た天気予報に反して雨が降っているのだ。別に謝られる筋合いもないが、本人が雨男であることを気にしている以上、無理にフォローしても逆効果だろう。否定はせず、笑いながら折りたたみ傘をしまった。移動自体は電車なので、そこまで苦ではない。ただ、目的地に着いてからは少し厄介かもしれないと思った。

電車に揺られながら、他愛のない話をする。正晴はわざわざ冬の間のことを話したりしないが、だからといってわざとらしく話題に出さないということもしなかった。最近バイト先であったことや、面白かった漫画の話など、いつもと変わらない感じでしゃべってくれる。それが楽だった。変な気の遣われ方をするくらいなら、取り繕わずにいてくれた方がいい。

目的地の最寄り駅に着くと、幸い小雨だった。正晴は少し落ち込んでいるようだが、別にこのくらいの雨ならそんなに気にするものでもない。

「雨男ってどうやったら治るんだろ」

隣からそんな呟きが聞こえた。冗談のような内容だが、声が本気だ。

「別に病気じゃないし、治るとかじゃなくね?」
「まあそうなんだけどさー」
「悩んでるのは分かるけどな。どっか出かける度に雨降るのとかだいぶ嫌だろうし」
「ほんとにそう。常に傘持ち歩くのも邪魔だしやだ」
 
そういえば、小学生のとき、遠足の日に雨が降ったことがあった。周りのやつらが、それを正晴のせいだと冗談交じりに責めていた覚えがある。正晴は笑って済ましていたが、実はかなりショックだったんじゃないだろうか。そんなことを思い出した。