「ありがとう」

改めて口にした感謝の言葉に、正晴は微妙な顔をした。だが、段々と穏和な表情に変わる。

「俺だって冬には感謝してるんだよ」

意外な言葉だった。俺は正晴に感謝されるようなことなんてしていない。

「冬はね、俺にとっての憧れなの。知らなかったでしょ?」
「何それ初耳」
「だって努力家じゃん。勉強も運動も、体のこと理由にしてできないって言っても誰も責めないのにさ。いっぱい努力して、でもそれを周りにひけらかさないで。それを見てたから俺も頑張ろって思えたんだよね」

そんな風に思われていたなんて初めて知った。勉強も運動も、ハンデがある分、人より努力してきたとは思う。ただ、正晴はいつも俺より優秀だった。憧れていたのは、むしろ俺の方だ。だから、そんな正晴の憧れが俺だなんて信じられなかった。

「まあ冬は自覚ないだろうけど」

正晴はそう付け足しながら伸びをする。のぞみといい、正晴といい、俺のことを過大評価しすぎである。俺は目の前のことをどうにかこなしてきただけだ。そんなにたいした人間じゃない。嬉しい言葉ではあったが、素直に喜べない自分もいた。

それからもう少し話をして正晴は帰っていった。その後、俺はもう一度のぞみからの手紙を読んだ。冒頭の挨拶に返事をしていなかったことに今更気づく。

「おはよう、のぞみ」

小声での挨拶が彼女に届くことはないかもしれない。それでも言わずにはいられなかった。