おそらく10分はそのままの状態でいた。正晴はその間なにも発さなかった。春の暖かい光が、カーテンを開けた窓から入ってくる。ゆっくりと時間が流れた。

「駅前の店のアイスを食べたいって言ってた」

ようやく出た言葉がそれだった。俺の唐突な発言に、正晴は怪訝な顔をする。当然の反応だ。別に意味のある発言じゃない。ふと思い出しただけに過ぎない。
 
「手紙きれいに開けるの苦手なんだよな」

もはや脈絡もなにもなかった。思いついたことを、とりあえず口から流しているだけ。ほとんど独り言だ。正晴もそれを分かっているのか、何かを言うことはなかった。

破いてしまわないように慎重に開けると、封筒と似た色の便箋が出てきた。封がしてある状態でも少し分厚めだと感じたが、やはり枚数が多い。のぞみがこれをいつ書いたのかは分からないが、きっとしんどい状態だっただろう。そんな中で手紙を書いてくれたという事実に胸が痛んだ。さっきまで封を開けるのすら躊躇していたのに、開けてしまえば迷いはない。俺は静かに、愛しい人からの手紙を読み始めた。