その後は、特に何もせず天井を眺めていた。見慣れた天井に今更どうこう思うこともなかったが、いやに照明が明るい気がした。しばらく暗い世界にいたのだからそれも当然だろう。正晴は落ち着かない様子で俺の方を見ている。気持ちは分からなくもないが、そこまで心配しなくても別に平気だった。どうせいつもと同じ春が来ただけなのだから。

目覚めたばかりだからか、のぞみとのことが夢の中での出来事のように思えた。彼女の存在をなかったことにしたいわけじゃない。だが、現実味がなかった。実際、のぞみと俺が思い合っていたことを示すものは何も残っていないだろう。

俺はまた目をつぶる。眠くはなかった。ただ、頭と体がだるかった。

「冬」
「大丈夫、ちょっとだるいだけ」

正晴の心配した声をさえぎって答える。病院特有の匂いと音の中で、ゆっくりとのぞみとの思い出を振り返った。