一通り笑ったあと、彼女は急に立ち上がって、俺の横に座った。ベッドに横並びで腰掛けている状態になる。俺はそれに何も言わなかったし、彼女も何も言わなかった。なんとなくそのまま数分が過ぎた。
 
「冬くんが寝ちゃうと、私さびしいな」

しばらくして、小さな声でのぞみが言った。ちょっと甘えるような色を帯びていた。俺だって寂しい。だが、俺は待たせる立場なので、そんなことを言うわけにはいかない。

「それなら体の調子がいいときにでも見舞いに来てくれ。ま、俺の寝顔なんか見ても面白くないだろうけどな」

わざと冗談めかして伝える。誰かに見舞いに来てくれなんて初めて言った。もし見舞いに来てもらっても、俺にできることはないからだ。それこそ俺の寝顔を見せてやることしかできない。
 
何も言い返して来ないので隣を見ると、のぞみは少し泣きそうな顔をしていた。それから俺が見ていることに気がついたのか、俺の右肩に向かって倒れてくる。

「じゃあ寝顔に落書きして遊んでやるよ」

いつもとは違う雑な言葉遣い。言った後にズッと鼻をすする音が聞こえた。気丈に振る舞いたいのだと分かる。そうさせてしまっていることが、なんだかとても悔しかった。

「春になったら絶対に目を覚ますから」

絶対なんてない。そう分かっているのに、つい口をついて出た。こんな確証のない言葉でも、それがのぞみにとって希望になるなら言わずにはいられない。のぞみが頷いたのが、肩越しに伝わってくる。小柄とはいえ、寄りかかられると重さと温かさを感じた。その分だけ、彼女への愛しさも感じた。
 
「待ってる」
 
聞こえないくらいのかすかな声。横目でのぞみの方を見る。表情が分からないくらい距離が近かった。それなのに照れや恥ずかしさはない。離れる辛さと、寂しい思いをさせている悔しさと、これからへの不安と、無防備な彼女への愛情。そんな色々が複雑に混ざりあっていた。