「前から気になってたんだけど、眠ってる間って夢とか見るの?」

純粋な質問だった。そういえばそんな話すらしたことはなかったと気づく。俺ものぞみの病気について聞いたことはほとんどない。気にならないといえば嘘になるが、何気なく聞くには重すぎる話だ。

「夢というか、なんか暗い空間にいる感じ」
「暗い空間?」
「暗くて、自分の体すら見えなくて……なんて言うんだろうな、闇の中でふわふわ浮いてるみたいな?」
「うーん、それは暇だね」
 
別に眠っている間、苦しい思いをすることはない。起きたときに、暗いところにいた記憶だけが残っているのだ。暇といわれれば暇なのだろうが、暇と思うことすらない。永遠にも一瞬にも思える時間がただ流れるだけだ。

「外の音とかは聞こえるの? もし聞こえるなら、漫画の最新回とか音読するね!」
「いやそれは普通に読みたいからやめてくれ」

よく分からない冗談に思わずつっこみを入れる。のぞみと話していると幾分か気が紛れた。くすくすと笑っている彼女はそんなこと知らないだろうが、正直かなりありがたかった。

「それで、実際音は聞こえるの?」
「聞こえてない、と思う。少なくとも起きたときには覚えてない」
「じゃあ音読しても無駄だね、残念」
「おい」

またしてもおかしそうに笑う。看護師にバレたら困るが、のぞみは声が大きい方ではないので大丈夫だろう。