「……?」

ベッドに座っていた女の子は、読んでいた本から顔を上げてこっちを見た。やはりさっきぶつかった子だ。改めて見ると、くりっとした目が特徴的な可愛らしい顔立ちをしている。

俺は正晴に押されて彼女の病室の中に入った。その部屋は俺のと同じつくりのはずだが、女の子感が溢れている。

「あー、勝手にすみません。少しいいですか?」

それを聞くと、彼女は戸惑いつつも頷き、本を閉じた。

「あの俺、さっき廊下でぶつかった者なんですが……」
「あ! ご、ごめんなさい! わざとじゃなかったんです」

怒られると思ったのだろう。彼女の声は明らかに俺を怖がっている様子だった。そんなに俺は怖いのか、と少し落ち込んでしまう。

「いや、別にぶつかったのはいいんです。そうじゃなくて、これ落としませんでした?」

タオルを見せながら尋ねると、彼女はハッとした顔をした。

「あ、落としちゃったんだ」

ポツリと呟く。彼女の落し物で正解のようだ。
俺が優しくそれを手渡すと、彼女は嬉しそうにタオルを抱きしめた。

「これ、大事なものだったんです」

ふわりと笑って言う姿はとても可愛らしい。

「誰かから貰ったものなんですか?」

久々に話す女の子というものに気後れをしつつ俺は話を広げた。

「友達……いや、知人から貰ったものなんです」

わざわざ言い直したところに違和感を覚えたが、あまり深くは突っ込まない方がいいだろう。俺は微笑んで、「そうですか」と答えた。