朝ベッドで目が覚めて、スマホのアラームを止める。画面に表示されている日付は11月30日。いよいよ明日になったら、暦の上では冬になる。まだ冬の寒さというほど気温は下がっていないが、俺の体はなぜか暦に忠実だ。日付関係なく寒さによって眠ってしまうのであれば、もっと生活が不便になっていただろうから、不幸中の幸いともいえるだろう。

毎年この日から入院生活が始まる。それは今年も例外では無い。慣れたもので、持っていく物や部屋の掃除など事前準備で手間取ることはなかった。

「冬、支度できた? あと1時間もしたら出るけど」
 
母さんが俺の部屋を覗きに来た。歩いて行ける距離ではあるが、今日は車で病院に向かう。とっくに準備を終わらせて本を読んでいたくらいなので、出発はいつでも構わなかった。

「あら、もう準備が終わってるんだったら早めに出よっか。たまにはちょっとドライブでもする?」
「ああ、そうしようかな」

俺の様子を見てのお誘いに、本を閉じて同意する。今日は天気もいいし、しばらくは出かけられなくなるわけだから、せっかくなら外に出ていたい。本当は散歩などの方がいいのかもしれないが、このタイミングでの体の負担は減らしておきたかった。

それからすぐに荷物を持って家を出た。ここから先、4ヶ月近くこの家には母さん一人になる。しっかりしている人だが、何かに巻き込まれないとも限らない。俺は心の中で母さんの安全を祈った。俺が眠っている間に、何かが起こってしまうのがいちばん怖かった。