「待って、付き合ってるかどうかだけは教えて」
3杯目のビールが届いたころ、父さんが急にそんなことを言い出した。何を待ってほしいのか意味不明だが、いろいろと何か考えていたのだろう。
「付き合ってないし、付き合う気もない」
嘘のない答えだ。ただ、付き合いたいかという質問であれば、答えは違ったかもしれない。父さんは、はっきりと言い切った俺に、少し驚いた顔をした。ちょっと前の俺なら、こういうことを聞かれたときに照れたり、怒ったりしていただろう。平然と答えた俺に驚くのも当然だ。
「そうか」
相槌を打った声は、だいぶ穏やかだった。もっといろいろ聞いてくるかと思ったが、そんな素振りもない。驚いていた顔も、気がつけば柔らかい表情になっていた。
二人とも食べる手が止まったのは、しばらくしてからのことだった。お金は気にせず食べろとのことだったので、容赦なく頼みまくった結果、かなりの量を食べてしまった。父さんはビールに飽きたのか、ハイボールをぐびぐび飲んでいる。どう考えても体に悪い。
「もうそろそろ帰るぞ」
「うーん」
目の前の酔っ払いにそう伝えて、俺は皿を重ね始める。ランチタイムも終わりかけのため、客は俺たちしかいなかった。聞こえているのかいないのか、ふにゃふにゃとした返事が聞こえる。だが、立ち上がる気はなさそうだ。仕方ないので父さんの財布を勝手に借りて、支払いを済ませる。無理やり立ち上がらせて店の外に出ると、乾いた冷たい風が吹いていた。
「あー、気持ちいい」
風に当たると少し酔いがさめた声色になった。酔うという感覚がまだ俺にはよく分からないが、酒というのはそんなにいいものなのだろうか。そんなことを思いながら父さんの方を見る。父さんも父さんで何か考えているような顔をしていた。
「冬は友達あんまりいないよね」
「急になんの話だよ。というか、そんな直球に言うな。傷つくだろ」
唐突な言葉に咄嗟につっこむ。事実だが、あまり言われたくない事実だ。俺の反応に父さんは微笑んだ。
「だからね、冬に大切な人ができたって聞いて嬉しいんだよ。冬の世界が広がっていくのはいいことだ」
お酒を飲んでいたのは、こんな真面目なことを言うためだったのかもしれない。なまじ明るい性格な分、真面目な話が苦手な人なのだ。正直、父さんの言いたいことは、あまり分からなかった。親の心子知らずというやつなんだろう。だが、隣を歩く父さんの満足そうな表情を見たら、分からないままでもいいかと思う。久々に父子二人で過ごす時間は、なんだかんだちょっと楽しかった。
3杯目のビールが届いたころ、父さんが急にそんなことを言い出した。何を待ってほしいのか意味不明だが、いろいろと何か考えていたのだろう。
「付き合ってないし、付き合う気もない」
嘘のない答えだ。ただ、付き合いたいかという質問であれば、答えは違ったかもしれない。父さんは、はっきりと言い切った俺に、少し驚いた顔をした。ちょっと前の俺なら、こういうことを聞かれたときに照れたり、怒ったりしていただろう。平然と答えた俺に驚くのも当然だ。
「そうか」
相槌を打った声は、だいぶ穏やかだった。もっといろいろ聞いてくるかと思ったが、そんな素振りもない。驚いていた顔も、気がつけば柔らかい表情になっていた。
二人とも食べる手が止まったのは、しばらくしてからのことだった。お金は気にせず食べろとのことだったので、容赦なく頼みまくった結果、かなりの量を食べてしまった。父さんはビールに飽きたのか、ハイボールをぐびぐび飲んでいる。どう考えても体に悪い。
「もうそろそろ帰るぞ」
「うーん」
目の前の酔っ払いにそう伝えて、俺は皿を重ね始める。ランチタイムも終わりかけのため、客は俺たちしかいなかった。聞こえているのかいないのか、ふにゃふにゃとした返事が聞こえる。だが、立ち上がる気はなさそうだ。仕方ないので父さんの財布を勝手に借りて、支払いを済ませる。無理やり立ち上がらせて店の外に出ると、乾いた冷たい風が吹いていた。
「あー、気持ちいい」
風に当たると少し酔いがさめた声色になった。酔うという感覚がまだ俺にはよく分からないが、酒というのはそんなにいいものなのだろうか。そんなことを思いながら父さんの方を見る。父さんも父さんで何か考えているような顔をしていた。
「冬は友達あんまりいないよね」
「急になんの話だよ。というか、そんな直球に言うな。傷つくだろ」
唐突な言葉に咄嗟につっこむ。事実だが、あまり言われたくない事実だ。俺の反応に父さんは微笑んだ。
「だからね、冬に大切な人ができたって聞いて嬉しいんだよ。冬の世界が広がっていくのはいいことだ」
お酒を飲んでいたのは、こんな真面目なことを言うためだったのかもしれない。なまじ明るい性格な分、真面目な話が苦手な人なのだ。正直、父さんの言いたいことは、あまり分からなかった。親の心子知らずというやつなんだろう。だが、隣を歩く父さんの満足そうな表情を見たら、分からないままでもいいかと思う。久々に父子二人で過ごす時間は、なんだかんだちょっと楽しかった。