数時間後、父さんが昼飯を食いに行こうと言い出した。母さんは仕事で出掛けているので、必然的に二人でということになる。俺にだって親に甘える気持ちはあるし、美味しいものをおごってくれるだろうから、言われた通りに着いていくことにした。

「冬は何食べたい? 肉? ステーキ? ハンバーグ?」
「全部肉じゃねえか」

俺のつっこみに、父さんは大きな声で笑う。結局向かったのは、歩いて15分ほどの場所にある焼肉屋だ。安くてうまいので、たまに正晴と行くこともある。

大量の肉と大盛りのご飯を頼んだ父さんは、珍しく昼間からビールを飲み始めた。冗談で「冬も飲むか〜?」などと言ってくるが適当にあしらう。平日だからか、店内には客があまりいない。正晴と一緒のときはだいたい土日なので、少し新鮮に感じた。

「父さんの部署にな、最近新しい人が入ってきたんだけど、その人も野球観戦が好きで。いやー、もう、すっごい話が合うんだよ! しかも酒の趣味も合うしさあ!」 
 
酒が入るとますます多弁になる。まだ肉を焼き始めた段階なのに、ビールはすでに2杯目である。未成年の俺にはよく分からないが、どう考えても早いペースだろう。俺のりんごジュースはまだ1cmほどしか減っていない。

「なんか、楽しそうだな」
「楽しいよ! でも、母さんと冬になかなか会えないのはさすがに寂しいなあ」

そう言うわりに、あまり寂しそうに見えないのはなぜだろうか。父さんの言葉を疑っているわけではなく、純粋な疑問だ。父さんは昔から悪い感情が顔に出にくい。悲しいも、辛いも、怒りも、笑顔の中に隠される。そうしてやり過ごしてきたことが幾度もあったのだと思うと、ちょっと心が痛む。少なくとも俺にはできないことだ。