ここ数日、少し目覚めが悪かった。起きられないほどではないが、まあまあ朝に強いにもかかわらず、すっきりとは目が覚めなかった。こんなところでもタイムリミットを感じる。冬が近づくと毎年そうなるのだ。

体にむち打つ意味も込めて、外にランニングに行く。バイトがない日や午後からの日は、できる限り走るようにしている。体力もつくし、体を動かすのは好きなので一石二鳥だ。

見慣れた道を走っていると、先の方に知ってる人がいた。前に会った時よりも髪が伸びているが、後ろ姿を一目見れば分かる。背負っている大きなリュックは、去年俺があげたものだ。

「おい」

ペースを上げて近づき、後ろから声をかける。振り向いた顔はなぜか恐怖に怯えていた。それから俺を認識すると、次は驚いたような顔になった。

「なんでいんの!?」
「いや、それこっちのセリフなんだけど」

俺はいつも通りランニングをしていただけだ。なんで、などと言われる筋合いはない。むしろ珍しいのは向こうの方である。今は関西に単身赴任中なのだから。

「一週間くらい休み取れたから、数日は帰ろうかなって」
「あー、そう。ちゃんと母さんに連絡した? 父さん帰ってくるなんて俺聞いてないんだけど」
「してない! サプライズ!」

にこにこと浮かれている姿は、我が父ながら子どものようだ。毎度連絡もなしに家に帰って、母さんをちょっと怒らせているのだが気にしていないらしい。父さんは昔からそういう人だ。仕事はできるらしいのに、マイペースでどこか掴みどころがない。あまり怒られた記憶もないし、父親の威厳みたいなものを感じたことはなかった。

本当はもう少し走るつもりでいたが、仕方なくランニングはそこまでにして、父さんと一緒に家に向かう。父さんは話したいことがたくさんあるらしく、ずっと口を動かしていた。前に帰ってきたのは初夏だったから、こうして顔を合わせて話をするのなんて、だいぶ久しぶりである。とりあえず元気そうで安心した。