のぞみは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに表情を崩して、くすりと笑った。

「そうかもね、冬くん」

わざとらしく名前を呼ばれる。少しいじわるな目だ。でも悪意のあるものでないことは分かる。正晴がからかってくるときの目と似ていた。

「でも俺別に自分の名前嫌いじゃないんだよな」
「私も!」

あえてその目を見つめて言葉を返すと、彼女は嬉しそうに同意した。今日ののぞみの表情は忙しない。でも、どんな表情も魅力的だ。それを独り占めできる自分は幸せだと思う。そして、この幸せこそが希望なんじゃないかと感じた。そうだとしたら、のぞみはやっぱり俺に希望をくれているということになる。たとえ、彼女がそう思っていなくても。

のぞみに伝えた通り、自分の名前と現実が乖離していようが、それは名前を嫌いになる理由にはならなかった。冬を過ごすことができなくても、「冬」という名前には、父さんと母さんの愛情が込められていることを知っているからだ。のぞみもきっと同じなのだろう。

名が体を表すとは限らない。それが事実だとして、別にただそれだけの話だ。そこに込められた思いがなくなるわけではない。その名を呼んでくれる人の思いがなくなるわけでもない。俺にとって大切な人は、みんな「冬」と呼んでくれる。だから、むしろ自分の名前には愛着がある。