デートから数日後、俺はのぞみの病室にいた。あの日の彼女の姿を、あの日の思い出を、壊したくなくて、ここに来るのに少し躊躇する気持ちもあった。それでも、のぞみに会うためには来るしかなかった。

ドアを開け、当然のようにベットの傍らの椅子に座る。それを咎める人はいない。この部屋の主はにこにこしているのみだ。


「え! かわいい!」

いつもは手ぶらでお邪魔しているが、今日は珍しく見舞いの品を持ってきた。俺が手渡したそれを見て、のぞみは大きな声をあげる。

「それ、近所の神社で売ってたやつ。しおりだから本読むときにでも」

紅葉の柄の入ったしおりである。あの神社では、季節ごとにさまざまな柄のしおりを売っているらしい。よく本を読んでいるのぞみにはピッタリのプレゼントだろう。それに、神社で買ったものなら彼女を守ってくれる力も付与されていそうだ。

「ありがとう、すごくうれしい」

しおりに視線を落としながら、さっきの大きな声とは逆に、控えめな声でのぞみが言う。何か思うところがあるのだろう。ただ、その顔はとても穏やかだった。

「気に入ってくれてよかった。きれいだろ、その柄」
「まあ、それもそうだけど、そうじゃなくて」

彼女はそこで言葉を切って、顔をあげる。ふふ、と微笑んだ姿が少し大人っぽくてドキッとした。

「冬くんが私のために考えてくれたんだろうなって思うから、それがうれしい」

まっすぐな言葉に、俺も嬉しくなる。喜んでもらえることをしたい、という俺の思いを察して、受け止めてくれるところに、彼女の聡明な優しさが表れている。