「のぞみの病気が分かってから、僕と妻はのぞみに対してどう接していいか分からなくなってね。甘やかしすぎたり、むりに取り繕おうとしたりしたんだ。のぞみは病気のせいで友人もほとんどいないようだし、僕たちとの関係も不自然な感じになってしまって、楽しいとか嬉しいとかそういうことを素直に感じられなくなっていたんじゃないかと思う」

絞り出すように、考えながら紡がれる言葉が苦しい。誰も悪くないのに、傷つく人が多すぎる。


「だから、君がいてくれてよかった」

目を見てはっきりと告げられた言葉を、単純に嬉しいと思った。俺がのぞみと一緒にいることが、お父さんたちの邪魔になっていないか、実はずっと不安だった。俺と出会わなければよかったと、そう思われている可能性も否定できなかった。だから、こうやって正面から「よかった」と言ってもらえることが、ただただ嬉しい。

「俺ものぞみと出会えてよかったと思ってます」

お父さんの目を見つめて、はっきりと伝えた。俺がのぞみに与えたものよりも、ずっとずっと大きなものを、俺は受け取っていると思う。惰性で生きている俺に、希望を与えてくれたのはのぞみに他ならない。


「ありがとう」
「ありがとうございます」

声が重なった。お父さんは少し驚いたような顔をして、それから笑った。

「冬君は大人だね。……ちょっと嫉妬してた僕の方がよっぽど子どもだ」

優しい声に照れが混じる。のぞみのお父さんがこの人でよかったと思った。