それから、しばらくそこでゆっくりと過ごした。お互い適当に周りの景色を眺めつつ、たまに思い出したようにとりとめのない話をする。病院でいつもしてるのとあまり変わらないが、場所が違うからか、あるいは、さっきののぞみの発言があるからか、いつもより心が満たされる気がしていた。


どれだけの間そうしていたのだろう。気がつけば、のぞみのお父さんが迎えに来る時間になっていた。腕時計を確認した俺は、名残惜しい気持ちを心の奥に隠して立ち上がった。

「もう行かなきゃな」
「うん、そうだね」

答えたのぞみの視線が、一度だけ地面に落ちる。きっと俺と同じ思いを抱いているのだと感じた。彼女の決意は、あくまで希望でしかない。またここに来られる日が来るか、不安は拭えていないはずだ。それは俺だって変わらない。


「次に来るときは、紅茶とかスイーツも持ってくるか」

なんでもないようにそう言って、彼女に手を差し出す。これからのことは正直わからない。それでも今は、のぞみの決意を大切にしたかった。のぞみは笑って大きくうなずき、俺の手を握った。小さくて柔らかいその手は、少し暖かく感じた。