しばらくして、のぞみが唐突に口を開いた。
「ねぇ、冬くん。私ね、決めたよ」
脈絡のないその言葉に、なんとなく強い意志を感じた。顔を見ると、いたずらっぽい笑みのような、それなのに少し切ないような様子である。
「何を?」
聞き返した自分の声は、思ったより穏やかだった。安心できるこの場所だからかもしれない。
「……春まで絶対生きようって。それでまた冬くんとここに来るんだ」
その時、サーっと乾いた風が吹いた。のぞみの髪が揺れる。彼女の言った内容よりも、その光景が先に脳まで届いた。
慌てて目を擦る。一瞬、ほんの一瞬だけだが、のぞみの周りに桜の花が舞っているように見えたからだ。思わずちょっと泣きそうになった。それからやっとのぞみの言葉を頭が理解し始める。
「そうだな」
出た言葉はそれだけだった。それ以上何か言ったら、声に弱さがにじんでしまいそうだった。
嬉しいのか悲しいのか自分でも分からない。それでもグッと込み上げるものがあった。のぞみの姿が、決意が、かけがえのないもののように感じられた。