車の中でののぞみは、いつもより口数が少なかった。まあ、お父さんの前で男とは話しにくいかと納得する。俺も母さんの前だったら、のぞみと気軽に話せる気がしない。

「冬君は、たしか喫茶店でバイトしてるんだっけ?」

のぞみが話さないからか、お父さんがいろいろと話を振ってくれる。この気の使い方もどことなくのぞみと似ていた。

「あ、そうです。あの、千歳南高校の近くの」

「ああ、あそこか。たまに前を通るけど、可愛らしい外装だよね」

「そうですね。一応童話がモチーフになってるので、可愛らしい感じにはなってます」

当たり障りのない会話。普通だったらぜひ来てくださいなんて誘いの言葉を掛ける場面だろうが、のぞみの前ではとてもではないけど言えなかった。お父さんもそうなんだと思う。

これからの話をするのは、どうしたって残酷だ。きっとこれまでだって、ご両親は慎重に慎重に言葉を選びながらのぞみと話したのではないだろうか。

ふと、俺の体質のことを医者から告げられたときの父さんと母さんの様子が頭に浮かぶ。悲しそうな申し訳なさそうな表情。冬、と名前を呼ぶ声が震えていた。俺がそんな体質になってしまったことに対してと、俺の名前を「冬」なんて名付けてしまったことへの自責や後悔の念に駆られていたんだろう。今ならそれが分かるが、幼かった当時は多分何も分かっていなかったと思う。それからも父さんたちは、冬関連の話をするのを躊躇しているようだった。俺からもわざわざ冬の話をすることはしなかった。のぞみの家もそんな風なのではないかと思った。

仕方がないといえば仕方がない。俺らの抱えているものは、簡単なものじゃないからだ。失われてしまった季節や未来を、どうしたって手に入れることはできない。それを分かっているから周りも気を使わずにはいられないのだろう。