デート当日の朝十時、俺は駅前のロータリーで水色の車が来るのを待っていた。前回のデートは徒歩とバスで移動したが、今回は念の為のぞみのお父さんの車で移動することになったからである。

のぞみの両親とは面識がない。頻繁に見舞いには来ているが、俺がいるときは遠慮しているのだとのぞみは言っていた。

集合時間をわずかに過ぎて水色の車は現れた。俺の前まで来て止まり、窓からのぞみが顔を出す。その様子にどことなく小動物感を感じた。

「ちょっと遅れちゃってごめん。乗って!」

のぞみに従って後部座席に乗り込む。軽自動車だが思ったよりもゆったりしていた。

「お邪魔します。今日はお世話になります」

乗り込む際にのぞみのお父さんへ向けて挨拶をする。振り向いたお父さんの雰囲気は柔和な感じで、のぞみに似ているように見えた。

「こんにちは。堅苦しくしなくて大丈夫だよ。二人きりにしてあげられなくてごめんね」

優しい声と言い方。実はかなり緊張していたのだが、それが少しほぐれた気がした。

のぞみの限られた時間のうち、家族が一緒に過ごせる分を少なからず俺が奪ってしまっている。その事実に対する罪悪感はあった。のぞみが望んでくれたこととはいえ、ご両親からすれば嫌な気持ちなのではないかと思ってしまう。それを微塵も感じさせない優しさに、安心感と同時に申し訳なさも感じざるを得なかった。