「俺は夏の方が好きだから……」

適当なことを言って誤魔化す以外に、俺にできることはなかった。


こんな体嫌だと改めて感じた。

誰の前でもほとんど言ったことはないけれど、ずっとずっとそう思っていた。せめて、こういう話になったときにうまく返せたらいいんだろうけど。


「冬くん?」

考えながらつい下を向いてしまった俺に、浅沼くんの不思議そうな声が投げられる。俺ははっとして顔を上げた。


「あ、ごめん。ぼーっとしてた」

なんでもないように笑ってみせると、彼は少し釈然としない顔をしたが、すぐににこっと笑い返してきた。

「確かに暑いとぼーっとしちゃうよね。俺なんてこないだ講義中にぼーっとしてて、気づいたら終了のチャイム鳴ってたもん! ノート真っ白!」

ああ、これは気を遣ってくれたんだな。
そう思った。

俺の周りには優しい人が多いことに、今更ながらに気づく。自分は周りをよく見てる方だと思っていたが、案外見えていなかったらしい。


「ははっ、浅沼くんって意外と優しいのな」

思ったことを素直に口に出す。

「えっ、え、今の話の流れからどうしてそうなったの!?」

本人は無意識みたいだけど。