目が覚めて部屋を出ると、すでに二人は起きていた。春香はまだ寝ているようだ。
 私たちの部屋は、人が泊まるときにはドアを開けたままなので、気持ち良く寝入っているのがよく見えた。

「おはよ」
「おはよう。窓の外見てみ」
「すごいですよ」
「まど?」

 振り向けば、世界は真っ白だ。

「寒いはずだねぇ。二人とも、夜平気だった?」
「おかげさまで、ネコチャンが来てくれて」
「有里氏、マジでうちの子に愛されだよねぇ」
「私のところには全然来てくれなかったけど、お布団あたたかかったので!」

 にゃぁ、とリリが足に体を寄せてくる。抱き上げて外を見せれば、体をよじった。冷気が嫌だったのか。

「犬は庭駆け回るのかな」
「うちの実家、柴犬飼ってますけど、寒い日は家の中に入りたがります。暑がりのくせに」
「ハツセの実家って」
「山梨です」

 それは寒そうだ。

「んはよ」

 ミヤを抱きかかえて登場してきたもう一人の家主は、髪の毛が天才的な状態になっている。
 指摘してみれば、そのまま洗面所に消えていった。
 昨日の残りのキノコの煮たものをチーズと共に食パンにのせて、トーストにする。
 コーヒーメーカーに水と粉をいれて、少しの間待つ。
 春香が髪の毛を大人しくさせて戻ってきた。

「窓、開けてええ?」
「そうだね。空気入れ替えよう」

 二人も頷く。今は雪は降っていないようだ。雪が積もった朝特有の、湿度のあるひんやりとした空気が、部屋の中を駆け巡った。リリとミヤは春香の部屋のベッドに走り去っていった。寒いのだろう。
 チーンとトーストが焼けた報告が届いたので、先ずは二枚。それを有里氏とハツセに渡す。珈琲の続きは春香が受け持った。

「すぐに私たちのもできるから、お先にどうぞ」
「美味しいです!」
「残り物とは思えないクオリティ」

 二人の賛辞に思わず顔がほころぶ。私たちの分もすぐに焼き上がり、追いかけた。
 ゆるりと満たされる腹具合に、幸福度が上がっていく。

「あとで二人を送りがてら、川崎に出て、クリスマス商戦でものぞき見しようかなぁ」

 仕事が決まったので、お金も安心して使える。

「だったら、私たちも川崎に行くよ。夕飯は川崎で食べない?」
「それ良い! 今のうちにどこか予約入れられそうなとこ、いれときまっす!」

 クリスマス・イヴもクリスマス当日も、このメンバーか。悪くない。
 それに、クリスマスは今夜までだ。明日にはもう、街は正月に向けて、一気にその色を変えていく。日本人のそうした習慣が、私は好きだった。

「今年は年末年始も帰る予定はないんやけど、灯は?」
「うちも、両親が年末年始で旅行に行くらしくって、集まるのは翌週の連休になった」
「えーっ! そしたら二日にでも遊びにきて良いですか」
「私も、二日に来ようかな」

 どうやら、新年早々から賑やかになりそうだ。

「ふふ」
「何笑っとるん」
「いや、なんか幸せだなって」

 胸の中にまるで甘いミルクが溢れていくような、優しい気持ちが満たされていく。時折震えるその表面が、私の心を震わせる。

「今年も来年も、皆で過ごせるのが、当たり前のようで、当たり前じゃないのに、でも当たり前だから」

 春香が珈琲のお代わりを淹れてくれた。誰もが、ゆったりと笑う。
 窓の外が、まるでミルクを零したような白で、染め上がっていた。