武士の男がいない間、母親は武士になりすまして彼の妻を守っていたのだった。

「もう少しで母親を殺すところだったかもしれない」

 武士は漁師の言葉に感銘と感謝を覚えた。

 武士が大和に戻っている間に、漁師は返すお金をきっちりと揃えていた。しかし武士は沖縄へ行くと、漁師に地元で起こったその出来事を伝え、

「感謝している。だから金はもらっておいてくれ」

 そういって武士は漁師のお金を受け取らない。

「いや、借りたお金はきっちりお返ししなければ」

 漁師もそう主張して受け取らなかった。

 それから、しばらくそのやりとりが続いたあと、二人は海岸沿いにあった岩にそのお金を置くことで合意した。

 話を聞きつけた人々がそこに御堂を立て、平安と村の繁栄を祈ることにしたらしい。

 それが今では『白銀堂』と呼ばれる御願所になっている、とのことだった。


 ざっと調べてみた私だったが、その場所にある話の一つが分かったとはいえ、自分の身に起こったことが分からなくて困惑した。

 この記述だけでは、あの美しい神社が現れたことも、そこから伸びてきた優しい気配に満ちた巨大な手のことも分からない。