私が見たあの神社は、いったいなんだったのだろう。

 私は敷地内を見渡すと、心の中で深い感謝の気持ちを告げてその場所を後にした。夕刻前には家族で予定が入っていたため、長居はできなかったのだ。


 帰ってあと、私は用事のある妹と母の支度の合間に『白銀堂』について調べてみた。

 白銀堂は、糸満市の中心街にある御願所で、航海安全と豊漁を司る海神が祭られているらしい。そこには有名な教訓があるとか。

『意地が出たら手を引け、手が出たら意地を引け』

 昔、大和の武士からお金を借りた一人の漁師がいたが、すぐに返すことができず、怒った武士に刀を振り上げられた際に、彼はその武士に方言でそう言ったらしい。

 武士は納得できないまま大和へと戻ったが、家に帰ると、自分の妻の隣に一人の男が寝ているのを見た。

 武士は怒り狂い、刀を引き抜こうとする。

 その時、彼はふと漁師のその言葉を思い出す。

『意地が出たら手を引け、手が出たら意地を引け』

 武士はそう自分を落ち着けた。そして、冷静になってその男を見てみると、それは自分の母親だった――という話だ。