ソレは私に興味を失ったあとのようだ。

 短く突き出た長さもばらばらの手足こちらに向けて動かしていたそれは、ぴたりと止まり、こちらを見ていたが、頭の向きを変えた。

 長い髪の垂れる女の後頭部だけが、ぼこぼこと盛りあがった肉の向こうに見える。

 先程、私を罵倒したくすんだ白のバンが走り出すのをソレは見やる。女の顔は、山道を登っていく白いバンを追っているようであった。血にまみれた両手足が、がっちりと地面を掴んでいる。

 ――ずるずるずる

 間もなく、私に背を向ける形で、肉の塊が地面を滑り始めた。

 塊からはえているような、歪な四つん這いだとは思えないほど速く四肢が動く。

 膝はそれぞれ有り得ない方向に突き出ていて、ばらばらに動きながら、ソレは生々しい足音をたてて白いバンを追っていく。

 私は吐き気が込み上げた。

 おぞましさに全身から血の気が引くようだった。

 整備された並木道の空気が重く、交差点から離れても震えと恐怖感が私の中にこびりついて離れなかった。