「――で、ナナちゃんに、教えこませてたの?」
「……はい」
俺は自分の部屋で、正座をして頭を下げている。
澤井の顔は、見られない。
今考えると、計画通り行くハズが無い。ナナに目配せしたって念力も通じないし、二人の空気を読む訳じゃない。
そもそも空気を読んでれば、キキちゃんが俺の前でユウタセンパイを連呼しない。
それに、うちん家は澤井の大邸宅じゃない。狭い地続きマンション。母さんがテレビを見て爆笑している声が聞こえてくるのに、俺の声が周りに聞こえない訳がない。
思いついてから今日まで、熱心にナナ指導したから、テンションも上がっていただろう。
それに学校で口に出来ない本心を声に出すと、凄くすっきりして幸せな気持ちになった。澤井が家で一人でキキちゃんに向かって想いを吐き出していた気持ちが解った様な気がした。
澤井が遊びに来てくれるって言った時、言う勇気が無いけど、ナナ伝いだったら、気持ちバレても良いかな~、なんならおしゃれな告白かなあ~なんて……
ナナを使おうとした罰が当たった。
ナナでも無い、まさかの母さんが、告った。
止める間なんて、無かった。怒濤の認知、誤解、納得をして喋りまくって去って行った……あれがオカンデフォルトだけど……澤井、驚いただろうな……
「ホントに、ごめん……」
俺は顔を上げられず、正座から土下座に移った。
明日からどうやって学校に行ったら良いか、解らない。
「イテッ!」
頭を下げた後頭部に、ゲシッと衝撃が。爪食い込んでる! ナナの、足?
「サワイ、スキ サワイ、スキ」
待ちに待ってたのが、今、出た?
澤井の笑い声が聞こえて来た。
俺も、ナナに頭を踏まれ、床に額擦り付けたまま、一緒に笑った。