「どうした? 雨宮、腹でも痛い?」
「いや、大丈夫」
俺の様子のおかしさに、澤井は身体を気遣ってくれた。
俺は、言葉少なに否定した。
部屋に入って、澤井には極力話し掛けない様にしている。
別に澤井の家に行った時、会話が無くなったあの頃と同じ状態って訳じゃ無い。
話したい事なら、山ほどある。
だけど、俺は口を噤んでいる。祈りながら。
ある計画の為に。
「あーかわいー……」
「……」
澤井も一頻り、ナナ賛辞をし終えたらしく、言葉少なになった。
チャンスだ。
俺は、全力で念を送る。
「なあ、雨宮ぁ、なんかお前、おかしくない?」
「……」
(頼む!!)
「ちょっと、一眞! ちゃんと美容院行ってきたわよ! どう?」
「か、母さん?!」
沈黙を切り裂いて、ノックせず、突然母さんが部屋に入ってきた!
「あら、もうお友達来てたの! 静かだからわからなかったわぁ。いらっしゃーい」
「お母様ですか。初めまして、澤井と申します」
「えーーー! さわい、くん?!」
「は、はい」
「あらーー! 一眞の好きな子?」
「え゛!?」
「だってアンタ、最近ずっと、念仏みたいに『さわい、好き』って言ってたじゃない。こんな家だもん、丸聞こえよ~ 母さんてっきりクラスの女子かと……」
「ギェ~~」
「でも、澤井くん~。あら~素敵ねぇ。アンタ面食いね! ハハハハハ!!」
「あ、あの……」
「この子、奥手で不器用だけど、悪い子じゃないのよ。澤井君、良かったらこれからも仲良くしてやってね~。だから、母さんに綺麗にしてこいって言ってたのね~。初めて好きな子に会わせてくれたわねぇ~。一眞上手くいって良かったわね~。お菓子持ってきますね~。ごゆっくり~」
嵐のように、オカンは去って行った……
「あ、あの、雨宮?」
澤井が呼びかけてくれる声が遠くで聞こえる。
――いっそ、ひとおもいに殺してほしい。