俺と澤井との関係は、ただのクラスメイト。
 しかも浅くて薄い。
 高校2年で同じクラスになったけど、それまでお互い存在すら知らなかった。
 仲が凄く良いわけでも、いつもつるんでいるわけでもない。趣味や思考もまるで違う。
 今でも澤井の事は、良く解らない事が多い。
 共通点が一つだけ有り、そこから話すようになっただけ。

 今みたく、たまに休み時間話す。
 有る意味こんな風に話を聞いてやることになったのが、奇跡だ。
 放課後一緒に遊びに行くことだって今までないし。
 以前ただ、一度だけ行った。澤井の家に。
 それが今、二人きりで話すきっかけになっている。

*  *  *

 澤井と俺の唯一の共通点、口をきくきっかけになったのは、お互いインコを飼っていると知ったからだ。
 クラスの役割決めの時、雑談になり、誰かがペット自慢をし始めて発覚した。

 会話に参加してた中で、俺と澤井だけしかインコを飼っていなかった。
 その時、二人だけというレア境遇からかなんなのか、やたら盛り上がってしまい、そのテンションのまま、帰りに澤井ん家のインコを見せて貰いに行くことになった。
 今考えると、行動が小学生のノリで笑える。

 お邪魔した澤井ん家は、俺ん家にはもう呼べないなと卑屈になる程、カッコイイ家だった。
 広いリビングには、家の中で飼えんのか?っていうくらい大きな犬がいて。

 インコよりそっちの方が飼ってる自慢出来るだろと内心思ったけど、インコは澤井自身が世話してて、部屋で飼っていると説明された。

 俺は偉そうに飼ってるっていいながら、母さんが大概世話してるから、俺の家にはマジで呼べないなとまた卑屈になった。

 初めて人を招いたよと、澤井の部屋に案内され、二人でインコと戯れた。
 他の話はしなかった。
 しなかったというより、話をすることがなくて出来なかった。
 触れ合いと飼ってる同士だけがわかるインコ有る有るで、一頻り盛り上がったけど、間が持たなくなった。

 シ……ンとした部屋で澤井と俺、愛想笑いを浮かべつづけ、そろそろ理由つけて帰ろうと思い巡らせてた時、部屋に甲高い声が響いた。

「ユウタ、センパイ!ユウタ、センパイ!」
「え?」

 俺は声のする方を探したが、俺たち以外もちろん人はいなくて。
 そこには鳥が一羽……片言ながらはっきりしゃべってた。

「こ、こら!キキ!」

 教室では見たことのない慌てふためいた澤井の姿があった。飼い主が鳥の羽より手をバタつかせている。

(ゆうたせんぱい?)

 澤井の心知らず、連呼しているキキという名のインコの言葉は俺の耳にはっきり届いた。

「スキ! スキ!」
「は?」

(スキ?って、好き?)

「ユウタセンパイ!スキ!ユウタセンパイ!スキ!ユウタセンパイ!スキ!ユウタ……」

 インコのキキは、俺の目には狂喜してるように映った。
 俺がそのユウタセンパイでないことが申し訳ないくらいに。

(ていうかユウタセンパイて誰だ?!好きってなに?!ユウタってことは男?キキちゃんが勝手に言い出したことじゃ……ないよな?!普段聞いてるから真似してんだよな?!)

 俺の疑問リミッターが外れ、率直に聞いてしまいそうになったけど
両手を顔で覆って床のクッションに撃沈している澤井の姿を見て、開きかけた口を閉じた。

「澤井……キキちゃん、絶対外に逃すなよ」
「……うん」

 察した俺がその場で言えた唯一の一言を残し、澤井ん家からそっと去った。

*  *  *

 そんな、奇異な偶然が重なった現在。
 今まで誰にも打ち明けられなかったらしい澤井の同性片想いの相手、 悠太先輩の恋話を、俺は唯一聞く役目になっている。