「俺、明日、学校行っても、だ、だいじょうぶ?」
「え? 休むつもりだったの? 何で! 来いよ! 雨宮居ないと、寂しいじゃん」
今度は澤井が目をそらして、唇とがらせてる。自惚れかもしれないけど……照れて、くれてる?
もしかして、ほんっとにちょっとぐらいは、俺にも可能性――
「……なあ。澤井って、ユウタセンパイのどこが好きだったの?」
「はあ?! 今この状態で聞くことぉ!? ノンデリカシーにもほどがある!」
「いや、ただホントに知りたくなって、」
澤井がぶち切れだした。何が悪かった? 地雷? こういう時に言っちゃいけないことってあるの? 俺、袋にもスピーカにも教ってないから!
ただ、澤井が好きな人の事のどこが好きか、知りたいと思っただけで!
「――が、――ところ……」
「なんて?」
「足が、速いところ!」
俺を罵りならも答えてくれた。けど、理由!
「小学生の、女子!?」
俺は堪えきれなくなって、笑ってしまった。
「五月蠅い! 雨宮だけには笑われたくないっ!」
ふくれっつらした澤井に、向こう脛を蹴られた。けど全然痛くない。
「俺、頑張るよ!」
「何、を?」
「走り! 今日から! 速くなれるように!」
全身に力が漲ってる。家を出た時は歩くのがやっとだったのに。今は地面から足が浮いてる気がする。
「じゃあ、また明日な」
「ちょ、」
「澤井、好きだから!」
二度目の好きは口から零れ出た。すんなり言えた。明日からも言えそう。
手を振りながら見た澤井は、夕焼けと同化して真っ赤な顔をしている。
走って帰ろう。一度も止まらず。足、速くなりたい。
相変わらず心臓は爆発しそうだけど、したって、いい。
俺は今、不憫な恋をしているかも知れない。
だけど――最高に、幸せだ。
ーおしまいー