お昼休みになり、「日曜日なら空いているよ」と返した。
 小沢からは「りょ」と、デフォルメイラストのうさぎスタンプが返ってきた。
 本当なら、コスプレイベントに行く予定だったが、痴漢というあんな恐ろしい目にあったのだから、行く気になれなかった。
 お財布が守られたと思ってポジティブシンキング!
 いつか推しグッズを買うときにそれが助けになるぞと思い込むことにした。そう、一円をバカにするものは一円に泣くなんて言葉もあるのだ。だから、これでいいのだ。
 その代わりにジャンルは違えど、オタク仲間と遊ぶというサプライズがやってきたのだから。

『何時からお邪魔していい?』

 確か遊びの約束って時間と待ち合わせ場所から決めたよなと思い出しながら、メッセージを返す。

『何時からでも。どうせ遅くまで親いないし。途中で昼飯買いにスーパー行ってのんびりしようぜ』

 まるでお部屋デートではないか! 胸が沸騰するような感覚に襲われた。
 しかし、何故デートという思考になるのか、金井は理解出来ない。少し考えると、昨日寝る前にごろごろしながら、ラブコメアニメを見ていたから、きっとそれに影響されたのだろうと納得させた。ラブコメ面白かったし。
 自分の席で小沢をチラ見しながら弁当を開き、口に頬張る。母親が作ってくれる代わり映えのない弁当、ゆかりのふりかけご飯に、甘い卵焼きに、冷凍食品がいくつかに、小さなタッパーにデザートのリンゴが入ったもの。小沢が自分の人生の一部に入り込んで来ただけなのに、その弁当は魔法がかかったかのように、いつもより美味しく思えた。
 彼らのグループは太陽の様に眩しい。
 流行りのゲームの話や、おもしろ動画の話や、グラビアアイドルの話など、次から次へと話題が変わっていく。
 自分と小沢とのメッセージのやりとりが亀ならば、彼らは新幹線だろうか?
 羨ましいと思いつつ、自分にはあの話のスピードにはついていけないなと思うと、対人スキルの無さに情けなくなっていく。
 だけど、いいんだ。小沢の家でアニメを見るから。友達じゃないけど、オタク仲間として遊ぶんだぞ。ふんすっと一人で鼻息を荒くした。
 小沢がふいに振り向いた。見つめているのを気づかれてしまったようだ。
 さっと目を反らすと、視界の端っこで、笑いながら小沢が小さく手をふってきた。
 この人タラシめ!
 何と反応したらいいのかわからず、口角を上げて笑うので精一杯だった。きっと今の自分の顔はとても気持ち悪いだろう。