学校で、金井はオタクだということを隠している。小沢は気を遣ってか、いつも通り無関係を装ってくれた。
だが、メッセージアプリでのやり取りはしている。
二人だけの秘密の関係で、まるで悪だくみをしているようだ。
他愛もないあいさつから、最近見たアニメの話や、ハマっているゲームの話。好きな動画配信者や面白い動画の話。嫌いな先公や科目のことなど、話題に事欠かなかった。
『メッセージでのやりとりなら、結構話せんじゃん』
小沢がそうメッセージを送ってきたときには、
『俺は口下手なだけなんです! 多分』
と返してやった。
普段の自分では絶対に発言できるとは思えないメッセージがさらっと打てた。小沢がそういう雰囲気を醸し出してくれているのだろうか。
学校で自然に発言できればきっと楽しいだろうに。複雑な気持ちも同時に沸いてくる。
小沢とのやり取りは、お互い時間がある時に返信するのが暗黙の了解となっていた。それは、人付き合いに消極的な、経験値不足の金井にとって、プレッシャーを感じずに済むからありがたい。ゆったりと流れるタイムラインだが、楽しい思い出が増えていくのが素直に嬉しかった。
驚いたのは、小沢は授業中にも関わらず、メッセージを送ってくることだ。
『そういえば暇な日いつ? 俺んちでアニメ見ようぜ』
こんなメッセージを送られてしまえば、今すぐ返信したいに決まっている。
小沢はいつも誰かと遊んでいるイメージがあるからだ。誰かにスケジュールを埋められて
たまらんと、日曜日空いてるよ! 心が叫びだす。
小沢が衣装を作って欲しいと頼んできた作品は、金井はタイトルだけは知っていたが、内容までは知らなかった。サブスクで見ようにも、金井が契約しているそれでは配信されていなかったのである。その旨を小沢に伝えれば、じゃうちにこいよということになったのである。
同級生の家にお邪魔するなんて、小学生以来だろうか。楽しみで胸がむずむずしてきた。
スマホを机に隠したまま、小沢に返信しようとすると、バコンと頭に衝撃が走った。
顔を上げれば、分厚いバインダーを持った担任がジロリと見下ろしてきた。
「お前に仲が良い友達が出来たのは喜ばしいが、交流は時と場合を考えること。普段のお前の真面目さを鑑みて今回は見逃してやるが、次やったらスマホは没収だ。いいな?」
「は、はい」
その言い方だと、メッセージアプリということがバレてしまったのだろう。金井は顔が熱くなり、縮こまった。
恥ずかしい。
席が後ろの方のため、バレないと思っていたが大間違いだったようだ。
周囲からは「バカだなぁ」などの声と一緒に、クスクスと嘲笑う声が響いた。
小沢をチラリと見つめれば、こちらをみて、脇から手を通し、手を立てて「わりっ」と謝るポーズをしてきた。
「おら、お前らいい加減黙れ! 授業再開するぞ」
何の変哲もない教室には、担任の眠たくなる声と共に、ペンと紙が擦れる音がする。小沢のせいで胸がドキドキする。誰にも聞かれませんように。
嬉しくて、楽しくて、口から変な声が出そうだ。どうかこの喜びが、おかしな声となって出ていきませんように。
金井はクラスでこれ以上目立たぬように、声が出ない様に、唇をぎゅっと噛み締めた。
早くお昼休みにならないかな。そうすれば、メッセージを返せるのに。
だが、メッセージアプリでのやり取りはしている。
二人だけの秘密の関係で、まるで悪だくみをしているようだ。
他愛もないあいさつから、最近見たアニメの話や、ハマっているゲームの話。好きな動画配信者や面白い動画の話。嫌いな先公や科目のことなど、話題に事欠かなかった。
『メッセージでのやりとりなら、結構話せんじゃん』
小沢がそうメッセージを送ってきたときには、
『俺は口下手なだけなんです! 多分』
と返してやった。
普段の自分では絶対に発言できるとは思えないメッセージがさらっと打てた。小沢がそういう雰囲気を醸し出してくれているのだろうか。
学校で自然に発言できればきっと楽しいだろうに。複雑な気持ちも同時に沸いてくる。
小沢とのやり取りは、お互い時間がある時に返信するのが暗黙の了解となっていた。それは、人付き合いに消極的な、経験値不足の金井にとって、プレッシャーを感じずに済むからありがたい。ゆったりと流れるタイムラインだが、楽しい思い出が増えていくのが素直に嬉しかった。
驚いたのは、小沢は授業中にも関わらず、メッセージを送ってくることだ。
『そういえば暇な日いつ? 俺んちでアニメ見ようぜ』
こんなメッセージを送られてしまえば、今すぐ返信したいに決まっている。
小沢はいつも誰かと遊んでいるイメージがあるからだ。誰かにスケジュールを埋められて
たまらんと、日曜日空いてるよ! 心が叫びだす。
小沢が衣装を作って欲しいと頼んできた作品は、金井はタイトルだけは知っていたが、内容までは知らなかった。サブスクで見ようにも、金井が契約しているそれでは配信されていなかったのである。その旨を小沢に伝えれば、じゃうちにこいよということになったのである。
同級生の家にお邪魔するなんて、小学生以来だろうか。楽しみで胸がむずむずしてきた。
スマホを机に隠したまま、小沢に返信しようとすると、バコンと頭に衝撃が走った。
顔を上げれば、分厚いバインダーを持った担任がジロリと見下ろしてきた。
「お前に仲が良い友達が出来たのは喜ばしいが、交流は時と場合を考えること。普段のお前の真面目さを鑑みて今回は見逃してやるが、次やったらスマホは没収だ。いいな?」
「は、はい」
その言い方だと、メッセージアプリということがバレてしまったのだろう。金井は顔が熱くなり、縮こまった。
恥ずかしい。
席が後ろの方のため、バレないと思っていたが大間違いだったようだ。
周囲からは「バカだなぁ」などの声と一緒に、クスクスと嘲笑う声が響いた。
小沢をチラリと見つめれば、こちらをみて、脇から手を通し、手を立てて「わりっ」と謝るポーズをしてきた。
「おら、お前らいい加減黙れ! 授業再開するぞ」
何の変哲もない教室には、担任の眠たくなる声と共に、ペンと紙が擦れる音がする。小沢のせいで胸がドキドキする。誰にも聞かれませんように。
嬉しくて、楽しくて、口から変な声が出そうだ。どうかこの喜びが、おかしな声となって出ていきませんように。
金井はクラスでこれ以上目立たぬように、声が出ない様に、唇をぎゅっと噛み締めた。
早くお昼休みにならないかな。そうすれば、メッセージを返せるのに。