新学期が始まった。
スタジオでの撮影が終わっても、小沢は変わらずメッセージアプリで接してくれた。
次はコラボカフェに出掛けようだとか、特典目当てに映画を何回見に行ったとか、オタクな話から、本当にお前の家に遊びに行ってもいいのか? とか、バイトでもやってみようかななどのプライベートの話もしてくれる。
だから、もう怖いものなんてない気がする。きっと失敗しても小沢がどうにかしてくれる、そんな気がした。
陽キャは怖くない。あれだけ小沢と関わったんだ。と金井は自分に言い聞かせた。
教室に入るが、誰も気に止めない。相変わらず自分は空気だということが嫌というほど、身に染みる。
コスプレなんてしなくても、小沢が背中を押してくれるから、大丈夫、大丈夫。
金井は席に着いた。小沢はまだ学校に来ていない。
スマホで漫画を読んでいると、小沢のあいさつをする声が聞こえた。そして、陽キャの群れの中へ当たり前のように入っていく。
やっぱり怖い。
群れの中へ飛び込むことを躊躇っていると、メッセージが届いた。
小沢からだった。
『早く来いよ。怖くないから。お前をフォローする準備は出来ている』
視線を陽キャの群れへ向けると、小沢と目が合う。その目は、金井を見守るように優しかった。
金井は立ち上がり、小沢がいる群れに向かって歩き始める。足が震え、まるで生まれたての小鹿のようだ。
誰かと何かをするのを、楽しいと自分に教えたてくれたのは小沢だ。これからも沢山教えてほしい。
そういえば、好きな作品でも、小沢が見せてくれた作品でも、仲間がいるからキャラクターが強くなる描写が沢山あったなと思い出す。
いつも他人事のように思えていたけれど、何だか自分にも当てはまっている気がする。
小沢と過ごした夏休みは嘘じゃない!
アニメの夏休みじゃなくて、自分は現実の夏休みを過ごしたのだと。
いつの間にか、足の震えはおさまり、真っ直ぐと陽キャの群れへ向かっていった。
何と声をかけたらいいのだろうか?
無難におはようだろうか?
「お、小沢くん……! おはよう!」
突然声をかけたからか、小沢と共にいた陽キャは、驚いたようにこちらをじっと見た。今まで関わりのない人が突然声をかけてくれば当然の反応だろう。
「おはよ、金井。椅子がないな。こっちに来い」
そんな中、約束通り小沢だけが普通に接してくれた。
「う、うん」
小沢の横へ移動すると、彼に腕を引かれた。よろけた先は、小沢の膝の上だった。つまり、小沢にだっこされる形になったのだ。小沢の腕の中にすっぽり収まって、嬉しいやら恥ずかしいやら、心臓がどきどきと煩い。
「小沢、いつも間に金井と仲良くなったんだよ?」
陽キャのうちの一人が口を開いた。悪意はなさそうで、ただ単に疑問からの発言に見える。
「色々あって」
小沢はスマホをポケットから取り出し、画像を漁り始めた。
「これみろよ。このドール服、金井が作ったんだぜ?」
一枚の画像を見せびらかした。それは、金井が作った服を着たドールの写真だった。
「器用なもんだな……」
「すげー」
「他の画像も見せろよ」
皆口々に金井を誉めた。
「細かい作業好きで、洋服作りとか好きなんだ」
コスプレ趣味だからなんて言う勇気はないが、自分の好きなことを誰かに言えるのは少し嬉しいかもしれない。自分の趣味を好意的に受け入れてくれる人が身近にいたと学んだから。金井は嬉しさから頬が熱くなるのを感じた。
「俺はガサツだからさそういうの出来るのうらやま……ってかそういう写真あるってことは、そのドール、小沢の?」
また別の陽キャが口を開いた。
「そうだ! 可愛いだろ」
小沢は得意気な顔をした。
「それを言うなら、俺んちの子も可愛いぞ!」
今度は別の陽キャがどや顔でスマホの画面を見せてきた。小沢のドールとは違う、フィギュア的なスタイルかつ、アニメチックな顔のドールで、露出度の高い衣裳を着ていた。
「なんだと! お前もドールオーナーだったのか!」
小沢は画面に釘付けだ。
「かわいいねぇ」
金井はアニメチックなドールについての感想を述べた。そのドールは二次元的な衣裳か映えそうだなとしげしげと見つめた。
すると、小沢は金井の心を読み取ったかのように「そのドールも衣裳の作りがいありそうだよな」とすねた様子で抱きしめてきた。どうやら金井が他のドールを誉めたものだから、焼きもちを焼いたようだ。
金井はすねられたら困ると、今の気持ちを小沢の耳元で話した。
「あ、あのね。俺、バイト代ためてドールお迎えしたいんだ。ドールの可愛さに気付けたのも小沢くんのおかげ」
「……! 金井、可愛すぎかよ」
小沢が上ずった声を発した。
金井は小沢のドールに嫉妬していたのも事実だ。だって気合いを入れてメイクした自分よりずっと可愛かったから。だけど、ドール服を作るのが楽しく、可愛くしてあげたいと思ったのも事実だ。
何より、小沢が自分を好きだと言ってくれた。結果、ドールに対する嫉妬心が消し飛んだ。それにより、今自分が何をやりたいのか見つかったのである。
一人で楽しむコスプレよりも、小沢とドールを楽しみたい。やや不純な動機であるが、誰かと何かをする楽しみを教えてくれた小沢と楽しいをまた共有したいと思ったのだ。
小沢のドールを思い出す。あのこにはああいう服が似合いそうだなだとかそんな妄想まで膨らんでしまう余裕まである。正妻の余裕ってやつだろうか?
口許が喜びで自然に緩んでしまう。
「何? お前らそういう関係なの?」
その言葉を聞いた金井は不安にかられた。この後に続く言葉は「気持ち悪い」だろうか? だが、その不安はあっけなく覆された。
「付き合ってるけど何か?」
小沢が金井の肩に顎をのせ、さも当たり前のように言った。すると、誰からともなく、
「よっしゃ! 初めて恋人が出来た小沢を祝うぞ! 金井、放課後暇か? カラオケでお祝いだ!」
そんな声が沸いた。
「う、うん!」
放課後、みんなで滅茶苦茶歌いまくったし、小沢とポッキーゲームをやる羽目になった。
ポッキーゲームという、合法的にキスが出来る遊びをやらされるなんて、陽キャ集団も悪くないなと思った金井だった。
スタジオでの撮影が終わっても、小沢は変わらずメッセージアプリで接してくれた。
次はコラボカフェに出掛けようだとか、特典目当てに映画を何回見に行ったとか、オタクな話から、本当にお前の家に遊びに行ってもいいのか? とか、バイトでもやってみようかななどのプライベートの話もしてくれる。
だから、もう怖いものなんてない気がする。きっと失敗しても小沢がどうにかしてくれる、そんな気がした。
陽キャは怖くない。あれだけ小沢と関わったんだ。と金井は自分に言い聞かせた。
教室に入るが、誰も気に止めない。相変わらず自分は空気だということが嫌というほど、身に染みる。
コスプレなんてしなくても、小沢が背中を押してくれるから、大丈夫、大丈夫。
金井は席に着いた。小沢はまだ学校に来ていない。
スマホで漫画を読んでいると、小沢のあいさつをする声が聞こえた。そして、陽キャの群れの中へ当たり前のように入っていく。
やっぱり怖い。
群れの中へ飛び込むことを躊躇っていると、メッセージが届いた。
小沢からだった。
『早く来いよ。怖くないから。お前をフォローする準備は出来ている』
視線を陽キャの群れへ向けると、小沢と目が合う。その目は、金井を見守るように優しかった。
金井は立ち上がり、小沢がいる群れに向かって歩き始める。足が震え、まるで生まれたての小鹿のようだ。
誰かと何かをするのを、楽しいと自分に教えたてくれたのは小沢だ。これからも沢山教えてほしい。
そういえば、好きな作品でも、小沢が見せてくれた作品でも、仲間がいるからキャラクターが強くなる描写が沢山あったなと思い出す。
いつも他人事のように思えていたけれど、何だか自分にも当てはまっている気がする。
小沢と過ごした夏休みは嘘じゃない!
アニメの夏休みじゃなくて、自分は現実の夏休みを過ごしたのだと。
いつの間にか、足の震えはおさまり、真っ直ぐと陽キャの群れへ向かっていった。
何と声をかけたらいいのだろうか?
無難におはようだろうか?
「お、小沢くん……! おはよう!」
突然声をかけたからか、小沢と共にいた陽キャは、驚いたようにこちらをじっと見た。今まで関わりのない人が突然声をかけてくれば当然の反応だろう。
「おはよ、金井。椅子がないな。こっちに来い」
そんな中、約束通り小沢だけが普通に接してくれた。
「う、うん」
小沢の横へ移動すると、彼に腕を引かれた。よろけた先は、小沢の膝の上だった。つまり、小沢にだっこされる形になったのだ。小沢の腕の中にすっぽり収まって、嬉しいやら恥ずかしいやら、心臓がどきどきと煩い。
「小沢、いつも間に金井と仲良くなったんだよ?」
陽キャのうちの一人が口を開いた。悪意はなさそうで、ただ単に疑問からの発言に見える。
「色々あって」
小沢はスマホをポケットから取り出し、画像を漁り始めた。
「これみろよ。このドール服、金井が作ったんだぜ?」
一枚の画像を見せびらかした。それは、金井が作った服を着たドールの写真だった。
「器用なもんだな……」
「すげー」
「他の画像も見せろよ」
皆口々に金井を誉めた。
「細かい作業好きで、洋服作りとか好きなんだ」
コスプレ趣味だからなんて言う勇気はないが、自分の好きなことを誰かに言えるのは少し嬉しいかもしれない。自分の趣味を好意的に受け入れてくれる人が身近にいたと学んだから。金井は嬉しさから頬が熱くなるのを感じた。
「俺はガサツだからさそういうの出来るのうらやま……ってかそういう写真あるってことは、そのドール、小沢の?」
また別の陽キャが口を開いた。
「そうだ! 可愛いだろ」
小沢は得意気な顔をした。
「それを言うなら、俺んちの子も可愛いぞ!」
今度は別の陽キャがどや顔でスマホの画面を見せてきた。小沢のドールとは違う、フィギュア的なスタイルかつ、アニメチックな顔のドールで、露出度の高い衣裳を着ていた。
「なんだと! お前もドールオーナーだったのか!」
小沢は画面に釘付けだ。
「かわいいねぇ」
金井はアニメチックなドールについての感想を述べた。そのドールは二次元的な衣裳か映えそうだなとしげしげと見つめた。
すると、小沢は金井の心を読み取ったかのように「そのドールも衣裳の作りがいありそうだよな」とすねた様子で抱きしめてきた。どうやら金井が他のドールを誉めたものだから、焼きもちを焼いたようだ。
金井はすねられたら困ると、今の気持ちを小沢の耳元で話した。
「あ、あのね。俺、バイト代ためてドールお迎えしたいんだ。ドールの可愛さに気付けたのも小沢くんのおかげ」
「……! 金井、可愛すぎかよ」
小沢が上ずった声を発した。
金井は小沢のドールに嫉妬していたのも事実だ。だって気合いを入れてメイクした自分よりずっと可愛かったから。だけど、ドール服を作るのが楽しく、可愛くしてあげたいと思ったのも事実だ。
何より、小沢が自分を好きだと言ってくれた。結果、ドールに対する嫉妬心が消し飛んだ。それにより、今自分が何をやりたいのか見つかったのである。
一人で楽しむコスプレよりも、小沢とドールを楽しみたい。やや不純な動機であるが、誰かと何かをする楽しみを教えてくれた小沢と楽しいをまた共有したいと思ったのだ。
小沢のドールを思い出す。あのこにはああいう服が似合いそうだなだとかそんな妄想まで膨らんでしまう余裕まである。正妻の余裕ってやつだろうか?
口許が喜びで自然に緩んでしまう。
「何? お前らそういう関係なの?」
その言葉を聞いた金井は不安にかられた。この後に続く言葉は「気持ち悪い」だろうか? だが、その不安はあっけなく覆された。
「付き合ってるけど何か?」
小沢が金井の肩に顎をのせ、さも当たり前のように言った。すると、誰からともなく、
「よっしゃ! 初めて恋人が出来た小沢を祝うぞ! 金井、放課後暇か? カラオケでお祝いだ!」
そんな声が沸いた。
「う、うん!」
放課後、みんなで滅茶苦茶歌いまくったし、小沢とポッキーゲームをやる羽目になった。
ポッキーゲームという、合法的にキスが出来る遊びをやらされるなんて、陽キャ集団も悪くないなと思った金井だった。