幻の記憶ー忘れ去られた陰陽師ー

ふらふらと部屋を出てゆっくりと学校へ向かう。

屋上の縁に腰掛ける。

何故が、この学校のものには触れることができた。

どうしてだろう。

そう考える余裕もなかった。

普通に歩けて、普通に座れて、普通に触れて。

まるで、生きているみたい。

飛び降りてみようかな。

真っ直ぐに立って、深く息を吸う。

どうせ死ねないしね。

諦めの微笑とともに、私は身体を空中に預ける。

頭から、真っ逆さまに堕ちていく。

目をぎゅっと閉じる。

やっぱり、ちょっとは怖いから。

そろそろ地面に当たるかな。

そう思っていたうっすら目を開けると、優しい風の檻に囲まれていた。

急いで辺りを確認すると、何かが上から落ちてくるのが見えた。

敵襲!?

思わず霊符を取り出して額にかざす。

武甕槌神(たけみかずちのかみ)様、どうかその御力をお貸しくださいっ」

(はら)(たま)い、清め(たま)え、(かむ)ながら守り(たま)い、(さきわ)(たま)え!』

何度も繰り返して身体に染み付いた動き。

もう何も考えなくてもできる。

むしろ、考えたくない。

悲しくなるから。

身体を光の鎧が覆っていき、光でできた刀が顕著する。

大きく刀を振りかぶって風の檻を破壊する。

それは、実稲と戦っていたあの頃を彷彿とさせた。

頬を伝って涙が落ちる。

戻りたい。

そう、強く思った。