「はぁ、はぁ、はぁっ」

終わらない。

どこまでも続く暗闇。

いつの間にか現れている穢たち。

斬っても、斬っても、斬っても。

まだ、消えない。

「どうし、てっ」

そう言いながら背後の穢に刀を突き刺す。

右手で穢を相手しながら、左手で霊符を取り出す。

建比良鳥命(タケヒラトリノミコト)様、どうかその御力をお貸しくださいっ」

(はら)(たま)い、清め(たま)え、(かむ)ながら守り(たま)い、(さきわ)(たま)え!』

背中に大きな羽が生える。

その羽を羽ばたかせ、私は空へ緊急避難した。

穢を警戒しながら考える。

霊符が使えるということはここは現し世、もしくは黄泉。

「どっちにしても詰み、か。」

それなら、少しでも穢を斬ってから死のう。

そう思って、光の刀を構え直す。

その時。

「Escape the bonds, flee the enemy!」

そう言いながら誰かが空から舞い降りた。

「逃げて、今すぐに。」

そう言いながら振り向いたのは、眼帯を付けた少女。

「でも、どうやって?」

少女は周りの穢を祓い続けながら答える。

「陰陽師は全員、天照大御神(アマテラス)の霊符を持ってるでしょ。それを使えばこの虚空から抜けられる。」

「…分かった。あなたはどうするの?」

「私は一人でも逃げられる。お願い、すぐに。」

「…ありがとう。」

天照大御神(アマテラス)様、どうかその御力をお貸しください。」

(はら)(たま)い、清め(たま)え、(かむ)ながら守り(たま)い、(さきわ)(たま)え!』

突如、私の身体が光に包まれる。

あまりの眩しさに思わず目を閉じる。

どこからか、声が聞こえる。

「…波、水波(みずは)、水波っ」

目が開く。

「はぁっ、はぁっ、はぁっっ」

息が荒い。

ここは、どこ?

辺りを見回す。

「あ、目覚めたんだ、よかった。」

背後から声が聞こえる。

「誰っ」

勢いよく振り向く。

そこには、長い金髪の少女がいた。

「はじめまして、私は空乃(そらの)瑞稀(みずき)。多分、あなたと同じ存在。」

「…私は天川(あまかわ)水波。第柒世代の形代。」

「形代…通りでね。普通の人間は、どんなに願ってもこの存在にはなれないもの。」

「私は…私達は一体何なの?」

「それには私の個宝(こほう)を説明する必要があるんだけど…聞く?」

「聞く。」

「じゃあ説明するね。私の個宝は非現実。その名のとおり、私は現実には存在しない。祈れば大抵のことはできるけど、他の幽霊にも見えないし、現し世にも干渉できない。ただ、穢を通してだったら干渉できる。私と一緒なら、あなたもね。」

「水波で良いよ。穢を通してっていうのは?」

「ちょっと分かりにくかったか。穢を倒したり、私の場合は穢を弱体化させることもできるよ。」

「つまり、穢を倒して現し世の陰陽師を助けたりできるってことね。」

「うん、後は私が時空移動(タイムトラベル)したり、平行世界(パラレルワールド)に行ったりもできるよ。」

「随分と万能な…って平行世界!?」

「う、うん。…急にどした?」

「私の守るべき存在が平行世界にいるの。私を平行世界に連れていくことはできる?」

「多分できると思うよ。」

「お願い。」

「いいよ。でもその前に、水波の個宝も教えて?」

「連れて行ってくれるならいいよ。私の形代は、かなり複雑な個宝なの。一定量の綺麗な霊力を体内に溜め込む必要があるんだけど、体内の霊力は時間経過と共に体外へ流れていくの。だから、常に霊力のコントロールをできる人と近くにいたんだけど…。その人は、今平行世界にいるの。もう名前言っちゃったほうが早いか。亜輝(あかぐ)実稲(みいね)。それが私の相方の名前。」

「ちょまって亜輝!?超一流の陰陽師一家じゃん。絶対現し世だと今話題になってるよ。」

「え、ここ現し世じゃないの?」

「うん、ここは私が非現実で作った私が人間としていられる空間。」

「だから物に触れたのね。…話を続けると、私はその場所も魔素濃度を下げることができるの。もちろん形代の効果でね。その代償として、あんなに難しい生命維持の条件と、穢れた霊力が体内に貯まると死ぬっていうのがあるの。それで私死んじゃって。せめて実稲だけでも生きてほしかったんだけどね、あの子も別の世界に行っちゃった。私はあの子を現し世に戻したい。それが望みよ。」

「じゃあ聞くけどさ、もし実稲ちゃん?が平行世界のが幸せそうだったらどうすんの?」

「…そのときは私が平行世界に住む。」

「んー、よしっ。その答えが聞けたなら私はいいよ。ちょっと紹介したい人がいるの。来てくれる?」

「?いいけど…。」