「今日は、ホンマに有難う」
「ううん、役に立てて良かったです」
「せや!」
歩にとって色々と長すぎる一日が終わり、教室を出る前、隼人に手首を掴まれた。
「お礼」
隼人は片手で鞄をゴソゴソと探りだした。
「パーにして」
「?……はい」
言われるがまま、手を開く。
「♪いーちにぃーさんーしー」
「何歌ってるんですか?」
「歌ってへんわ!数かぞえてんねん!」
背丈拳一つ上から怒鳴られ、歩は肩を竦めた。
「ご!」
歩が視線を落とすと、掌には……
「飴ちゃん! 今日のお礼、遠慮せんと貰て!」
無機物をちゃん付けで呼びながら、隼人の上品スマイルと一緒に、歩の手に握らされていた。
キラキラ光る金色の飴が五つ。
「俺もめっちゃ好きやけど、ばあちゃんが好きでな。ぎょうさん、買いだめしてたん一緒に持って来てん」
飴自体あまり見ることはないけれど、貰ったそれは歩が初めて見る飴だ。
「これ、なんていう……」
「[おうごんとう]言うねん。綺麗やろ。美味しいで」
「今日はホンマに世話になったから、奮発して五個あげる! 俺って、太っ腹やわ!」
隼人の声が誰も居ない教室で響いた。
「はあ。有難うございます……」
飴ごときでなぜこんなに自慢げなのか、歩に真意は解らないが、有難い事には変わりないので、礼を告げる。
「ふーちゃんやから……特別やで。こんなあげたん、初めてや」
”特別やで”
真意解らず、有難味がいまいちなかった飴が、隼人に告げられた一言で、何故か嬉しさ百倍に感じた。
さっきより、黄金に輝いて見える。
「落としなや」
手を両手で覆われ、また鼓動が早くなる。
「ほな、また明日! ふーちゃん!」
「ほ、な……」
飴を五つ握らされた左手を息苦しい胸に当て、へなへなな右手を振り、嵐の様な転校生を見送った。
歩にとって、怒濤の一日が終わった。