「隼人君、あの、聞いて良いですか?」
「ん? 何、ふーちゃん。何でもええよ!」
「何で転校して来たんですか?こんな時期に遠い所から。転勤とか?あ、もし話しにくい事だったら……」
「全然話にくい事無いけど、遠い所か。言葉気になる?」
「いえ、そんな」
「俺も正直、悩んでんけど。関西弁、我強いから引かれるとか聞くやん。最初標準語?で行ったろうかなおもてんけど。すぐばれそうやし。メッキ剥げた後の方か困るかな、思て」
「そうでしたか」
「あ、質問に答えてへんな。そうそう、この直りそうにない関西弁の元は、ばあちゃん譲りやねん。俺のリスペクト人生の師匠でもあるばあちゃんと、俺暮らしてたんやけど…天国行ってもて。急やってなあ」
「え?」
「でもばあちゃん、有難いことに俺が困らん位お金遺してくれてて。関西のおばちゃんは強いで。なんちゃら詐欺とか、ひっかからへん。お陰で俺、暮らせて高校も辞めんですんだ。ありがたい」
隼人は、西だろう方角に向かって手を合わせて拝みはじめたから、歩はその姿を黙って見つめるしかなかった。
「この学校に来たんは、先に天国行ったじいちゃんの出身校やねん。ばあちゃんは、最後までじいちゃん一筋ラブやったから『隼人にはじいちゃんみたいになってほしい』てこの学校に俺が入るのが遺言やったんや。ここ、進学校やし男子校やし、おぼっちゃん学校やから調べて知った時、来るんプレッシャーやったわあ。今まで普通の学校行ってたし」
「ハハハハハ!」と隼人は高らかに笑った。
「あ! ふーちゃん、これで俺が『メッキ剥がれるー』て言う意味解る?」
「意味?」
「ばあちゃん、こっち生まれのじいちゃんと結婚してずっと一緒やったのに、死ぬまでこの喋りのまま、やってん。惚れた違う言葉の人とずっと一緒に暮らしても、何十年……うつらん,直らん,引っ張られん…それを、俺継いでんねん。そら無理やろ!」
「ハハハハハ!」と隼人は再び高らかに笑った。
歩は隼人の話を、笑っていいのかどうか解らなかったけれど、本人の明るい笑い声を聞いて合わせて笑ってみた。
その二人の笑い声に、昼休みのクラスはまたざわついた。