生きる意味とか理由について考えだしたのは、いつからだろう?

 少なくとも小学校に入ったばかりの頃は、まだ生きる意味も理由も考えずに済んだ。

 『俺と(りん)()ちゃんが警察、結姫ちゃんと優惺がドロボーな! 制限時間は十分で!』

 『優惺くん! 結姫を私に捕まえさせないでよ?』

 『お、言ったね!? 凛奈、私を捕まえられるなら捕まえてみなよ!』

 そうだ。

 幼馴染み四人と、こうして遊んでる時間が()やしだったんだ。

 (たか)(はし)(てる)(あき)()々(さ)()凛奈。

 学校も家も近いから、物心がついた頃には一緒に遊んでいて気が付けばいつも四人でいた。

 消えたいなんて思うことも、少なかった。

 家庭ではともかく、学校での時間が楽しくて……。救いだったからだと思う。

 『ぎゃぁあああ、凛奈に捕まった! 鬼、悪魔、凛奈! 惺くん助けて! 脱獄脱獄!』

 『はいはい、結姫は無理して走っちゃダメなんでしょ? 大人しく(ろう)()に入って』

 『凛奈ぁ~! 私を病人扱いしないでよ!』

 『だから全力で捕まえたでしょ? (よう)(しゃ)なくさ』

 泥棒と警察に分かれた鬼ごっこ。

 身体の悪かった結姫は体力もなくて、いつも真っ先に捕まってた。

 警察役の凛奈ちゃんに連れられた結姫は、牢屋に入れられる。

 そんな結姫を、校庭の木の(そば)から見守りながら――

 『――ん? 今、木が揺れた? あの葉っぱの間にある服、優惺か!?』

 『え、(うそ)! 優惺くん見つけた!? 今日は絶対、捕まえてやる!』

 『惺くん、逃げきって!』

 視線を上げ木に向かい走る輝明と凛奈ちゃん。

 そんな二人の様子を笑いながら見つめる僕は――

 『――え、服だけ引っかかってる!? 優惺、上着を残して逃げた!?』

 『嘘!? じゃあ優惺くん本体はどこ!?』

 木に登って捕まえようとしていた二人の叫び声を尻目に、物陰から飛び出た。

 『結姫、タッチ! よし、脱獄だ!』

 『惺くん、迎えに来てくれるって信じてたよ!』

 牢屋代わりにしたサッカーゴールの中で立っていた結姫の手を取る。

 『マジか、結姫ちゃんにまで逃げられた! 反対側に回り込んでるとか忍者かよ!』

 『悔しい! また優惺くんにやられた!』

 ああ……。懐かしいな。

 二度と戻ってこない、皆との楽しい日々。

 どうして狂ったんだろうと思い返せば……当然だったなと諦めに至る。

 あれは、小学校の四年生ぐらいだったかな……。

 狭山市に近い(ところ)(ざわ)(こう)(くう)(こう)(えん)に親子四組で遊びに行った時にも、徴候はあった。

 日本の航空発祥の地とかで、航空機の展示とかスポーツ場、小川で自然と触れ合えるとか。もの凄く広くて色々なものがあると聞いて、胸をときめかせた。

 アスレチックとかで遊びたいねと、四人で話してたっけな。

 だけど実際には……そうはならなかったんだ。

 当日、両親は僕の手を引き合いながら

 『優惺、まずはフライトシミュレーターに乗るんだ。そこで航空機に興味を持ってから詳細を勉強しよう。最後に操縦席へ座れば、さらに学べるだろう 』

 『あなた、何を言ってるの? 航空機の操縦なんて優惺の将来の役に立たないじゃない。 優惺、管制塔へ行くわよ。実際に英語で交信してた音声も聞けるらしいわ。優惺なら聞き取れるわね?』

 『お前は、また! 興味関心と理屈を学ばせなければ思考能力も育たないだろう!? 』

 『優惺が立派な大人になるのを邪魔してるのは、そっちでしょう! あなたの教育は間違ってるのよ! 実用性とか理論的根拠が乏しいものに優惺を促さないでよ !』

 大声で(けん)()をしている姿に、皆は 顔が引きつってた。

 代々続く一族経営企業の社長をしてる父さん。

 東京の大きな病院で研究もしてた、優秀な看護師の母さん。

 今なら分かるけど……。

 悪気はなく、一人息子の僕に期待して教育熱心だったんだと思う。

 『おじさん、おばさん! 惺くんは私たちと遊ぶ約束があるの。だから』

 『結姫ちゃん。悪いけど、これは家庭の問題だ』

 『そうよ。うちの教育だから、口出しをしないで遊ぶといいわ。身体に気を付けてね?』

 『でも、でも……。惺くんは遊びたいって、言ってたんだもん!』

 結姫が涙ぐみながら、僕の目を見る。

 そんな結姫を連れ戻そうとしてる両親にも、結姫は必死に抵抗してたな。