夕暮れ時になると、少し早めに花火会場へと移動した。
「あかね公園なら、座って見られるかもなんだって! 花火も近い距離でね!」
「本当だ。開けた場所には、もうレジャーシートが敷いてあるけど……」
「そこは仕方ない! 私たちはイベント全てを満喫しようって欲張りなんだから!」
「欲張り……。そう、だよね。色々求めたら、何かを犠牲にするのは仕方ない、か」
そうだ。
何かを求めるなら対価を支払うのと、一緒だ。
全てを完璧に思った通りにしようなんて……。
カササギの言った通り、身勝手すぎたのかもしれない。
「惺くん、どうしたの? 難しい顔して、何か考えてる?」
「ううん。僕は結姫の笑顔が好きで仕方ないんだなって。それだけ」
「え!? きゅ、急にどうしたの!?」
「改めて、そう思っただけだよ」
「あ、改めて!? い、いや~。あの、ね? 急に言われると照れるというか、ね!?」
「急じゃないよ。ずっと思ってた。結姫が笑えるなら、他に何も要らないってさ」
「……え? 何、それ?」
「い、いや、何でもない。座る場所つくろうか」
戸惑う結姫とレジャーシートを引っ張り合い、隣り合い座れる場所をつくっていく。
長い髪を結ぶ結姫と、夏の公園独特の土っぽい香りの中で今か今かと空を見上げる。
自分の命が時間制限付きだと意識すると、何だかこの時間が終わってほしくない。
感じたことがない不思議な感覚に陥っちゃうな……。
結姫は、ずっとこんな想いを抱えて生きてきたんだね?
気付くのが遅すぎたけどさ……。
いざ自分も同じ立場になって、やっと理解できた気がするよ。
会場にマイクでアナウンスが流れて、いよいよだと皆が暗い夜空を見上げる。
すると――
「――おぉ!? きた、きたよ!」
一発目の花火が打ち上がり、どこからともなく拍手が沸き起こる。
内臓と鼓膜が、ズシンと揺れる感覚に、風に漂う火薬の香り。
宝物を見つけた子供のように無邪気な表情をした結姫も、一緒になって拍手してる。
微笑ましいな……。まだまだ、この笑顔でいて ほしい。
この時間が、永遠に終わってほしくないなぁ。
どうして時間は、前にばかり流れてしまうんだろう?
過去に巻き戻ったり、止まってはくれないんだろうね。
夜空を彩っては消えていく花火は瓶の中に詰められた輝きとは違うけど……。
もしかしたら、人の生涯と似てるのかもなぁ。
定められた期間で、一瞬大きく開き人々を笑顔にする。そうして散るのも、定め。
本来の流れに逆らおうと欲張ったから、カササギは僕に罰を与えたのかもしれない。
本当に、このまま結姫へ何も伝えず散るのが……正しいんだろうか?
「惺くん、花火凄いね! めっちゃ綺麗! ズシンズシン響いて、消える瞬間まで綺麗! 感動する~!」
結姫が隣で、満開の笑顔を咲かせてる。
大声で話して、やっと聞き取れるぐらい打ち上げ場所は近いみたいだ。
そう言えば、近くで大迫力の打ち上げ花火を見たのは、二人とも初めてか。
ああ……。結姫と、まだしたことのない経験をもっとしたい。
そう、思ってしまってる。
自惚れかもしれないけど、僕が最期を迎える時……その後。
結姫は悲しんでくれちゃうかもしれない。いや、幼馴染みの最期にきっと哀しむ。
そう思うと、胸が苦しいなぁ……。
ダメだ、涙が勝手に流れてくる。
自分で決めたこと。自らつくり出した余命のはずなのにね。
僕は怖がりで、泣き虫だ……。
「……結姫は自分の命が終わる時でも、涙は流さなかったのにね。まだ訪れてもない未来を考えて、こんな……。本当、僕は弱くて情けないな。ごめん、ごめんね」
掠れるような声が、我慢できずに漏れ出てしまった。
結姫は夜空へ目を向けたまま、か。横顔を見る限り、聞こえてなさそう。
良かった。こんな弱音で結姫の楽しい時間を邪魔せずに済んで……。
一緒になって、夜空の同じ方角へと目を向ける。
生ぬるい夜風、暗い空で明るく咲く花。
花火が終わり周囲が帰り始めるまで、気が付かなかった。
結姫と手が重なり合ってることにも、僕は気が付けなかったんだ――。
「あかね公園なら、座って見られるかもなんだって! 花火も近い距離でね!」
「本当だ。開けた場所には、もうレジャーシートが敷いてあるけど……」
「そこは仕方ない! 私たちはイベント全てを満喫しようって欲張りなんだから!」
「欲張り……。そう、だよね。色々求めたら、何かを犠牲にするのは仕方ない、か」
そうだ。
何かを求めるなら対価を支払うのと、一緒だ。
全てを完璧に思った通りにしようなんて……。
カササギの言った通り、身勝手すぎたのかもしれない。
「惺くん、どうしたの? 難しい顔して、何か考えてる?」
「ううん。僕は結姫の笑顔が好きで仕方ないんだなって。それだけ」
「え!? きゅ、急にどうしたの!?」
「改めて、そう思っただけだよ」
「あ、改めて!? い、いや~。あの、ね? 急に言われると照れるというか、ね!?」
「急じゃないよ。ずっと思ってた。結姫が笑えるなら、他に何も要らないってさ」
「……え? 何、それ?」
「い、いや、何でもない。座る場所つくろうか」
戸惑う結姫とレジャーシートを引っ張り合い、隣り合い座れる場所をつくっていく。
長い髪を結ぶ結姫と、夏の公園独特の土っぽい香りの中で今か今かと空を見上げる。
自分の命が時間制限付きだと意識すると、何だかこの時間が終わってほしくない。
感じたことがない不思議な感覚に陥っちゃうな……。
結姫は、ずっとこんな想いを抱えて生きてきたんだね?
気付くのが遅すぎたけどさ……。
いざ自分も同じ立場になって、やっと理解できた気がするよ。
会場にマイクでアナウンスが流れて、いよいよだと皆が暗い夜空を見上げる。
すると――
「――おぉ!? きた、きたよ!」
一発目の花火が打ち上がり、どこからともなく拍手が沸き起こる。
内臓と鼓膜が、ズシンと揺れる感覚に、風に漂う火薬の香り。
宝物を見つけた子供のように無邪気な表情をした結姫も、一緒になって拍手してる。
微笑ましいな……。まだまだ、この笑顔でいて ほしい。
この時間が、永遠に終わってほしくないなぁ。
どうして時間は、前にばかり流れてしまうんだろう?
過去に巻き戻ったり、止まってはくれないんだろうね。
夜空を彩っては消えていく花火は瓶の中に詰められた輝きとは違うけど……。
もしかしたら、人の生涯と似てるのかもなぁ。
定められた期間で、一瞬大きく開き人々を笑顔にする。そうして散るのも、定め。
本来の流れに逆らおうと欲張ったから、カササギは僕に罰を与えたのかもしれない。
本当に、このまま結姫へ何も伝えず散るのが……正しいんだろうか?
「惺くん、花火凄いね! めっちゃ綺麗! ズシンズシン響いて、消える瞬間まで綺麗! 感動する~!」
結姫が隣で、満開の笑顔を咲かせてる。
大声で話して、やっと聞き取れるぐらい打ち上げ場所は近いみたいだ。
そう言えば、近くで大迫力の打ち上げ花火を見たのは、二人とも初めてか。
ああ……。結姫と、まだしたことのない経験をもっとしたい。
そう、思ってしまってる。
自惚れかもしれないけど、僕が最期を迎える時……その後。
結姫は悲しんでくれちゃうかもしれない。いや、幼馴染みの最期にきっと哀しむ。
そう思うと、胸が苦しいなぁ……。
ダメだ、涙が勝手に流れてくる。
自分で決めたこと。自らつくり出した余命のはずなのにね。
僕は怖がりで、泣き虫だ……。
「……結姫は自分の命が終わる時でも、涙は流さなかったのにね。まだ訪れてもない未来を考えて、こんな……。本当、僕は弱くて情けないな。ごめん、ごめんね」
掠れるような声が、我慢できずに漏れ出てしまった。
結姫は夜空へ目を向けたまま、か。横顔を見る限り、聞こえてなさそう。
良かった。こんな弱音で結姫の楽しい時間を邪魔せずに済んで……。
一緒になって、夜空の同じ方角へと目を向ける。
生ぬるい夜風、暗い空で明るく咲く花。
花火が終わり周囲が帰り始めるまで、気が付かなかった。
結姫と手が重なり合ってることにも、僕は気が付けなかったんだ――。