埼玉県朝霞市で行われる彩夏祭の当日。

 今まで意識しなかった僕の余命が尽きるまで、あと十一ヶ月と迫った八月だ。

 暑いとニュースでも噂になる埼玉県。

 陽光がジリジリと肌を焦がして痛い。心なしか、歩くだけで息も苦しい。

 結姫と僕は――

 「――うわぁ! 凄い、鳴子の音に踊りが綺麗! これ、芸術ってやつだよね!?」

 「芸術とかは分からないけど、格好いいよね」

 昼から地元の団体が披露する鳴子や、よさこい踊りを見ていた。

 二人して浴衣。

 あの時は着物だったけど、シチュエーション的に鎌倉の一件を思い出してしまう。

 キラキラとした結姫の目が、僕の最期を目の当たりにしたらどうなるのか。

 何も知らされずの方が、幸せなのか?

 それとも……。

 「……惺くん? 暑い?」

 「あ、ああ。ごめん。考えごと」

 「また? う~ん……。とりあえず、お茶飲みなよ! はい、これ」

 「これ、()(やま)(ちゃ)? 地元のスーパーで買ってきたのか」

 狭山のお茶は有名だもんな。脱水とか熱中症を心配して用意したんだろうけど……。

 僕は結姫とは違うことを心配して、悩んでる。

 演舞を見て、出店を回り……。

 楽しい雰囲気の祭りの中――心に募るのは、この笑顔をどうすれば失わせないか。

 そして、カササギがくれた四つのヒントへの思考ばかりだ。

 結姫を可愛くて大切だと思えば思う程、自分の余命が少しずつ近付くのに恐怖を抱き始めてしまった。

 覚悟はできていたつもりだったのに……。

 猶予がある方が辛いなんて、思いもしなかった――。