星に誓う、きみと僕の余命契約

 真夏だけど、手軽に栄養を摂れる料理ってことで(なべ)を作った。

 これなら結姫も指を切ることなく料理ができるだろうって思惑もある。

 一番は、結姫が埼玉名物の(ふか)()ネギを買い物カゴに入れたがって譲らなかったから。

 誰かと鍋をつつくのは、凄く温かい。心までも。

 冷房をつけてても、鍋だから汗が吹き出ちゃうのは難点だけど……。

 「ご馳走様でした! 何だ、惺くん食べられるじゃん!」

 「だから言ってるじゃん。昨日までは、その……。食べるのを(なま)けてたんだよ」

 「食べるのを怠けるって、珍しい言葉だね!」

 正確には、食べなくてもいいと思ってたんだ。

 七夕の夜に、全てを終えるつもりだったから。

 だけど予期せずして人生は、あと一年間続くことになった。

 あと一年、か……。

 これは――自ら望んでつくり出した余命のはずなのになぁ。

 何で僕は――……。

 「……何か暗いというか、思い詰めてる? やっぱり私、迷惑だったかな?」

 「あ……。違うよ、迷惑なんかじゃない。ちょっと、考えごとをね」

 「そう? それなら、まぁ……」

 何とも言えない、納得はしてない表情だけど、結姫も受け入れてくれたみたいだ。

 言わずに結姫へ余命を渡せるのが一番だけど、対話や思考が大切ってヒントが気になる。

 結姫には、カササギのことを相談するべきか?

 どっちが答えなのか――

 「――惺くん、これ!」

 考え込んでると、視界に突然スマホのディスプレイが飛び込んできた。

 映ってるのは、お祭りかな?

 「(さい)()(さい)?」

 「そう! 来月、(あさ)()でやるんだって! よさこいとか(なる)()を踊って、その後に花火! 出店も沢山あるんだってさ! 行ってみたく、ないかな?」

 最後にトーンダウンしたのは、鎌倉での一件を気にしてるからかな?

 いや、僕が思い詰めたような表情をしてる――ように見えるせいかもしれない。

 結姫に嫌な思いはさせたくないし、これを断ったら……きっと、悲しむよね。

 「朝霞市なら、狭山市駅からも近いね。うん、行こうか」

 「いいの!? やった~! 断られたら、どうしようってドキドキしちゃったよ!」

 不安そうな顔から一転、畳の上を転げて喜んでる。

 あと一年で結姫とは、お別れなのに……。

 僕はヒントとか関係なしに、結姫との思い出を欲してしまってる気がする。

 これは、身勝手じゃないかな?

 支払う対価に、悪影響を及ぼさないかな?

 やっぱり僕が寿命を全て渡して、皆の記憶から消えるのが一番――……。

 「……あれ?」

 「ん? 惺くん? どう、したの? 顔色、真っ青だよ」

 「いや、えっと……。あれ?」

 待て……。

 待て待て待て!

 カササギは、あの胡散臭い男は……っ。

 余命契約を結ぶ時――僕が存在しなかったことにすると、一度も言ってない?

 そうだ、ただ余命を渡すことのみの契約だった!

 何てことだ……。

 結姫の余命を長くする一心で、こんな大切な契約の漏れにも気が付かないなんて!

 「惺くん? どうしたの? 頭を抱えて……。やっぱり、まだ体調悪い?」

 「いや、違う。違うんだよ……っ。自分の愚かさが、無能さが許せなくて……っ!」

 このままでは――上手くいっても、結姫に僕が亡くなる場面を見せてしまう?

 そんなの、絶対にダメだ。

 結姫の笑顔が守れない!

 何とか、何とか手はないか……。来年の七夕まで、カササギに会う手段はない。

 来年、契約完了の手続きで会おうと言われた。

 それは、来年まで会うつもりがないってことだ。こんな契約をしておいてっ!

 「くそ……っ。やっぱり悪魔だったっ!」

 「……惺くん、大丈夫だよ。落ち着いて?」

 背を撫でてくれる結姫の手が、汗で肌へ張りつく僕のTシャツに引っかかってる。

 それでも、嫌がるそぶりもない。撫でるのも、やめない……。

 こんな、いい子なのに……。

 人の最期を見せるなんて、トラウマを植えつけたくないっ!

 全てを事前に話しておけば、少しは結姫の傷が浅く済むか?

 伝えたら結姫は、『諦めた行動をしないでよ!』って怒るかな。

 いや、余計に悲しませてしまうのかも……。

 「惺くん、深呼吸しよっか?」

 「あ……。ごめん、もう大丈夫だよ」

 結姫を家に送った後、一人で悩めばいいんだ。

 僕には思考することが大切なんだって、カササギもヒントをくれたじゃないか。

 「花火、楽しみにしてる。全力で楽しんで、結姫が笑えるようにしよう」

 「惺くんもね? そうだ、浴衣着ていこうよ! その方が楽しそう!」

 「浴衣? 分かった、買っておく。アルバイト代も入るから――」

 「――それは食費に回して! おばさんのお金もあるんだし、栄養と健康的な生活が優先! 自分のことも、しっかり考えてよ!」
 怒られてしまった。

 結局、浴衣は結姫のお父さんが家に置いてるのを借りることになった。

 結構な数があるらしく、結姫が僕に似合いそうな色をチョイスしてくれるらしい。

 面白そうに「どんな色を着せようかな」と想像してる姿も楽しそうだから、買わない選択は正しかったのかもしれない。

 結姫を家へと送り届けた後、僕は改めて、どう自分の存在を終えるのか。

 頭を悩ませ続けた。

 結局、現状を打開できるような案は、何一つとして浮かばなかった――。