翌日。
学校でスマホに考えをメモしながら、周囲を観察する。
昨日カササギがくれたヒントを、一先ず纏めてみた結果だ。
おそらくキーとなるのは、『犯した罪の清算』、『相手の真の希望や望み、対話や思考を行い身勝手にならず』、『冷静かつ客観的に現在の周囲、己を大切に見つめ直す』、『天の川のように輝く瓶のような関係』だ。
この四つのうち、まずは分かりやすいものから取り組もう。
そうだな、『冷静かつ客観的に現在の周囲、己を大切に見つめ直す』といのは、やりやすいかもしれない。
早速、結姫の様子を観察するか。
そう決意した昼休み。
「結姫は、凛奈ちゃんと教室に入っていったな」
合わせる顔もなく、男子トイレに身を隠し隙間から結姫の様子を分析してた。
僕の教室へ向かう二人の姿が見えたけど……。
結姫は毎日、教室まで僕を迎えに来てくれてたのか?
何事もなく七夕の夜を迎えられるようにと、このところ昼休みはずっと教室から消えてた僕なのに……。
体育館裏の一件以来、結姫は『僕がしばらく一人で考えたい』という意見を尊重してくれてた。
「本当に、ごめん」
結姫の優しさに応えてない自分への嫌悪感で、押し潰されそうだ……。
今は合わせる顔がない。忍ぶように、二人の声が聞こえる位置まで近付く。
すると
「結姫ちゃん、凛奈ちゃん。いらっしゃい」
輝明の声だ。
「やっほ~輝明先輩! 今日は惺くん、いるかな?」
「いや、またサッと消えちゃってさ……。とりあえず、入りなよ」
「ん~、そっか。少しだけでも、元気な顔を見られればいいんだけどなぁ。もしかしたら今日は戻ってくるかもだから、お邪魔します!」
「……お邪魔します」
まるで、いつものことのように輝明が二人を誘導してる。
結姫の肩に触れ、誘導するように。
凛奈ちゃんも、結姫も……すぐに輝明やクラスの陽キャと楽しそうに会話してる。
「何で……。胸が痛い、何で痛むんだ、治まってよ……っ」
この数週間で輝明の方が結姫に好意を抱いてるのかと、また醜い嫉妬心を抱いてるのか?
慌てて男子トイレへ駆け込む。
個室で冷静に考えを整理しながら、キュッと締めつけられるような胸を押さえた。
「正しいはずなのに……。長くてもあと一年で、僕は消えるんだ。だったら、結姫が相応しい人と一緒にいるのは、正しいことだろう?」
それなのに、何でこんなに、胸がモヤモヤするんだ?
結姫の肩へ輝明の手が触れた瞬間、胸が締め潰されるかと思った。
「……違う。嫉妬じゃない。あと一年で、あの笑顔が見られなくなるからだ」
輝明や、他の皆と仲良くなるのは願ってたことだ。
本当に、いいと思う。
カササギに願った通り僕の記憶を忘れ、結姫が輝明と付き合うのは素晴らしいはず。
だけど僕だけは……もう、結姫の笑顔を見られなくなる?
あの笑顔を、一年後には確実に――
「――ぅぉえええ……ッ!」
耐えられない吐き気が襲ってきて、思わず便器に胃液を吐きだす。
ずっと当たり前にあった結姫との日々が失われ、あの笑顔が僕の知らないところで僕以外の誰かだけに向けられる。
それが、こんなにも辛いことだったなんてね……。
最期を意識して……。時間制限がないと、気が付かないもんだなぁ。
思考に感情が、ついていかない……。
まずは、汚れた手を洗わないと――。
「――何て情けない表情をしてるんだよ、僕は」
鏡に映る自分の顔は、悲痛に歪んでた。
この数週間、食べるのすら面倒で……。
今日に至っては、吐いた。
いや、こんな顔をしてるのは、それだけが理由じゃないんだろうな……。
冷静かつ客観的に周囲や自分を見つめ直してみると、過去の自分が諦めて結姫に頼りっきりだったことに対する後悔が止まらない――。
異変が起きたのは、その日の午後。体育の授業中だった。
「ぁ……」
目眩が止まらない。サッカーの最中、いつも通り立ってただけなのに……。
夏のはずなのに、寒い……。あの店に招かれた時みたいに、世界が回り始めた。
これも、カササギからの報いなのか?
ダメだ、意識が遠のいて――
「――優惺!?」
てる、あき?
誰かが、僕を揺らしてる?
「先生、早く保健室に! 優惺が、空知が倒れてます!」
「何だと!? おい空知、大丈夫か!?」
「しっかりしろ! おい、なぁ! 目を開けてくれって!」
「揺するな高橋! 意識がない。誰かAEDと他の先生を! 俺は救急車を呼ぶ!」
迷惑をかけるから、そんなことしなくても……と言いたいのに。
それなのに、口が動いてくれない。視界も暗くなって、これはダメだ……。
ああ、大事になっちゃったなぁ。
これは話が耳に届いたら、結姫にも心配かけちゃうかも。
いや、もう僕のことなんて気にしないでくれれば――……。
学校でスマホに考えをメモしながら、周囲を観察する。
昨日カササギがくれたヒントを、一先ず纏めてみた結果だ。
おそらくキーとなるのは、『犯した罪の清算』、『相手の真の希望や望み、対話や思考を行い身勝手にならず』、『冷静かつ客観的に現在の周囲、己を大切に見つめ直す』、『天の川のように輝く瓶のような関係』だ。
この四つのうち、まずは分かりやすいものから取り組もう。
そうだな、『冷静かつ客観的に現在の周囲、己を大切に見つめ直す』といのは、やりやすいかもしれない。
早速、結姫の様子を観察するか。
そう決意した昼休み。
「結姫は、凛奈ちゃんと教室に入っていったな」
合わせる顔もなく、男子トイレに身を隠し隙間から結姫の様子を分析してた。
僕の教室へ向かう二人の姿が見えたけど……。
結姫は毎日、教室まで僕を迎えに来てくれてたのか?
何事もなく七夕の夜を迎えられるようにと、このところ昼休みはずっと教室から消えてた僕なのに……。
体育館裏の一件以来、結姫は『僕がしばらく一人で考えたい』という意見を尊重してくれてた。
「本当に、ごめん」
結姫の優しさに応えてない自分への嫌悪感で、押し潰されそうだ……。
今は合わせる顔がない。忍ぶように、二人の声が聞こえる位置まで近付く。
すると
「結姫ちゃん、凛奈ちゃん。いらっしゃい」
輝明の声だ。
「やっほ~輝明先輩! 今日は惺くん、いるかな?」
「いや、またサッと消えちゃってさ……。とりあえず、入りなよ」
「ん~、そっか。少しだけでも、元気な顔を見られればいいんだけどなぁ。もしかしたら今日は戻ってくるかもだから、お邪魔します!」
「……お邪魔します」
まるで、いつものことのように輝明が二人を誘導してる。
結姫の肩に触れ、誘導するように。
凛奈ちゃんも、結姫も……すぐに輝明やクラスの陽キャと楽しそうに会話してる。
「何で……。胸が痛い、何で痛むんだ、治まってよ……っ」
この数週間で輝明の方が結姫に好意を抱いてるのかと、また醜い嫉妬心を抱いてるのか?
慌てて男子トイレへ駆け込む。
個室で冷静に考えを整理しながら、キュッと締めつけられるような胸を押さえた。
「正しいはずなのに……。長くてもあと一年で、僕は消えるんだ。だったら、結姫が相応しい人と一緒にいるのは、正しいことだろう?」
それなのに、何でこんなに、胸がモヤモヤするんだ?
結姫の肩へ輝明の手が触れた瞬間、胸が締め潰されるかと思った。
「……違う。嫉妬じゃない。あと一年で、あの笑顔が見られなくなるからだ」
輝明や、他の皆と仲良くなるのは願ってたことだ。
本当に、いいと思う。
カササギに願った通り僕の記憶を忘れ、結姫が輝明と付き合うのは素晴らしいはず。
だけど僕だけは……もう、結姫の笑顔を見られなくなる?
あの笑顔を、一年後には確実に――
「――ぅぉえええ……ッ!」
耐えられない吐き気が襲ってきて、思わず便器に胃液を吐きだす。
ずっと当たり前にあった結姫との日々が失われ、あの笑顔が僕の知らないところで僕以外の誰かだけに向けられる。
それが、こんなにも辛いことだったなんてね……。
最期を意識して……。時間制限がないと、気が付かないもんだなぁ。
思考に感情が、ついていかない……。
まずは、汚れた手を洗わないと――。
「――何て情けない表情をしてるんだよ、僕は」
鏡に映る自分の顔は、悲痛に歪んでた。
この数週間、食べるのすら面倒で……。
今日に至っては、吐いた。
いや、こんな顔をしてるのは、それだけが理由じゃないんだろうな……。
冷静かつ客観的に周囲や自分を見つめ直してみると、過去の自分が諦めて結姫に頼りっきりだったことに対する後悔が止まらない――。
異変が起きたのは、その日の午後。体育の授業中だった。
「ぁ……」
目眩が止まらない。サッカーの最中、いつも通り立ってただけなのに……。
夏のはずなのに、寒い……。あの店に招かれた時みたいに、世界が回り始めた。
これも、カササギからの報いなのか?
ダメだ、意識が遠のいて――
「――優惺!?」
てる、あき?
誰かが、僕を揺らしてる?
「先生、早く保健室に! 優惺が、空知が倒れてます!」
「何だと!? おい空知、大丈夫か!?」
「しっかりしろ! おい、なぁ! 目を開けてくれって!」
「揺するな高橋! 意識がない。誰かAEDと他の先生を! 俺は救急車を呼ぶ!」
迷惑をかけるから、そんなことしなくても……と言いたいのに。
それなのに、口が動いてくれない。視界も暗くなって、これはダメだ……。
ああ、大事になっちゃったなぁ。
これは話が耳に届いたら、結姫にも心配かけちゃうかも。
いや、もう僕のことなんて気にしないでくれれば――……。