僕が愚かなことなんて、言われなくても分かってるさ。

 結姫には極力近付かず、遠くから身体が無事なのを見守ることに徹して迎えた――七夕の夜。

 去年と同じく狭山市の病院敷地内を彷徨い歩き……気が付けば、また怪しい店の中にいた。

 大袈裟な身振りで迎えたのは、顔の上半分を白い仮面で覆い黒の燕尾服を着た男。

 そう、カササギだ。

 僕は今年も、カササギの取引相手として認められたらしい。

 お試し契約を途中で打ち切られず、結姫が一年を生き延びられて良かった。

 だけど今日の取引、本番はここからだ。

 「カササギ。ここは対価次第で、何でも取引ができる店。そうですよね?」

 「ええ、ええ。以前もお伝えした通り、私は嘘や(そん)(たく)が嫌いです。当然、私自身の言葉にも嘘偽りはありませんよ?」

 それを聞いて、安心したよ。

 カササギの能力にも限界があると言われたら、どうしようかと思ってたから。

 「今回の命の取引で……。僕の余命を全て、結姫へ渡してください。いえ、僕は最初から、この世に存在しなかったことにしてください。――人の記憶からもです」

 これこそ僕が考え続け、諦めず訴えようと決意した願いだ。

 一年後には終わるかもしれない、半端な契約じゃない。

 そう、『あなたが死にたいと思い適当に生きた一日は、誰かが本気で生きたくて仕方がなかった一日だ』という言葉。

 本気で生きてくれる大切な人に渡せるなら、全ての日々を渡そうじゃないか。

 生きる意味も理由も分からない適当な命が続くより、僕を知らない結姫が本気で生きる命の方が、圧倒的に尊く美しいと決まってるんだから。

 ゆっくりと、カササギの口元が半月のように歪んでいく。

 まるで悪魔のように怪しげな雰囲気に、背筋を汗が伝った――。