背後から、結姫の宣言にも似た大声が聞こえてくる。

 ダメだ、足を止めるな!

 これ以上を考え求め迷ったら、今ある何もかもを失いかねないじゃないか……っ。

 心臓が割れそうな鼓動。肺が割れそうな荒い呼吸。汗が流れ込んで痛む目。

 全て無視して、アパートへ駆け込む。

 扉を閉めた瞬間、玄関扉に背を預け、ズルズルと座り込んでしまった。

 力が抜ける……。

 僕が結姫の笑顔を奪ったせいで、危うく結姫の命を……奪うところだった。

 もう僕は、結姫に関わらずタイムリミットを待った方がいい。

 カササギと契約更新を約束した七夕まで、残り数週間だ。

 一人になりたいって言葉で、見逃してもらえるだろう。

 下手に結姫と関わって、あの輝きを鈍らせちゃいけないんだ。

 「ごめんね、結姫……っ。こんな僕にも諦められないことが、一つだけあるんだ」

 生きる意味や理由も、未だ分からない。何となくで生きてる。

 そんな僕に、たった一つある譲れない信念。

 「結姫のためなら、僕は死んでもいい」

 ああ、頭に浮かぶなぁ。

 この、奇跡のような一年間――

 「――君が生きて笑う将来を迎えることだけは、どうしても譲れないんだよ……っ!」

 祝福するように輝くLEDに照らされ、シーキャンドルでトラウマを克服する姿。

 初めての体験に笑顔を弾けさせる瞬間。

 豊かで分かりやすい、君の喜怒哀楽。

 着られないと宣告されてた高校の制服を着て、最高の笑みを浮かべる結姫の表情。

 わずか中学三年生で、周囲に愛されながらも命を終えてしまうはずだった。

 それでも闘い続けたからこそ掴んだ、奇跡のような現実。

 決して、失っていいものじゃないんだ――。