服装を整えやってきたのは、鎌倉小町通り。

 ここは――。

 「――お団子、抹茶だって! 美味しそう~。あれ食べよう!」

 「りょ、了解。買ってくるね」

 そう、食べ歩きだ。

 店で買って食べて回るとか、初めてで心が落ち着かない。

 作法が分からないから……。

 「高校生になってお小遣い増えたから、自分の分は自分で買う!」

 以前の江ノ島、僕が一方的に料金を払ったことを根に持ってるのかな。

 (すで)にお金を手に握ってる。

 これは無理に断ると、逆に()ねさせちゃうかな?

 仕方なしに、僕は結姫が買いたい抹茶以外の味を選んで買う。

 「うわぁ~美味しい! もっちもちの触感も最高だぁ!」

 店内の飲食所で一際騒がしい僕らだけど、最高の宣伝になるんじゃないかな?

 僕の瞳にはコマーシャルみたいに映る。それぐらい美味しそうに食べてるから。

 店員さんも嬉しそうに笑ってる。問題ないらしい。

 情報通り、鎌倉小町通りは食べ歩きの名所。

 結姫が楽しむかなと思って選んだけど、これも大正解。

 着物姿で美味しそうに団子を頬張る姿が、めちゃくちゃ絵になる。

 ゴミを片付け店員さんにお礼を言い、また小町通りを歩きだす。

 「あれ! 惺くん、あれも確実に美味しいよ~!」

 「鎌倉コロッケ?」

 「私、(べに)(いも)コロッケがいい!」

 「じゃあ僕は、二番人気の牛肉コロッケかな」

 お店に並びながら、看板を見て何を買うのか話し合う。

 ただ僕は、食べ歩きの本当の意味を理解してなかった。

 「ここ、飲食スペースとかないタイプなんだ。……道を歩きながら食べるのか」

 「そうだよ! お祭りとかの出店も同じでしょ?」

 「僕、そういうの行ったことないから」

 「奇遇だね! 私もだよ!」

 奇遇でも何でもない。

 人混みのある中、自由に歩き回れなかった結姫。

 食べながら歩くなんて行儀が悪いと、許されなかった僕。

 二人とも初めての体験なのは、当然だった。

 「凄く、悪いことをしてる気分になるよ」

 「ルール違反じゃないって! お店の看板にも『周りに気を付け、歩きながら食べてください』って書いてあったでしょ?」

 「ここのルールは、そうするのがマナーってことか」

 「新しい世界を知れるって、楽しいね!」

 楽しんでる結姫の気分に水を差すのも悪い。

 周りを見ても、注意されることなく食べながら歩いてるしな……。

 抵抗感は強いけど、思い切って歩きながら口に入れてみる。

 「あ、美味しい……」

 「こっちもだよ! お芋の甘さが口に広がる~! そっちのも一口、ちょうだい!」

 「あ……」

 ちょうど結姫の顔の横辺りにあった牛肉コロッケを、結姫がサクッと頬張った。

 間接キスとか(ぎょう)()が悪いとか気にしてるのは、よくないよね。

 いや、何か結姫も、少し恥ずかしそう?

 「お、美味しいなぁ~。うん、凄く美味しくて嬉しいなぁ」

 「それは、何というか……。うん、良かったです」

 「何で敬語なのかな? 惺くん、はい! 紅芋の方も! 等価交換だよ?」

 「……本気、だよね」

 結姫が歩きながら差し出すコロッケは、揺れてる。

 ぷるぷると小刻みに震えてるのは、道を歩きながらだろうか。

 それとも腕の疲れや、他の理由があるのかな?

 周りの迷惑にならないように、小さく一口頬張ってみる。

 「ど、どう?」

 「うん、うん……」

 「『うん』だけじゃ分からないよ~! もうっ!」

 いや、コメントに困るんだってば……。

 結姫が望み喜ぶなら、何でもする覚悟だったけど……。

 これは少し、罪悪感もある。

 本来、こういうのはカップルがすることだと思うから――。