やってきたのは、(かま)(くら)駅を降りて少しの場所にある着物店。

 ここは、結姫が『やりたい』と望んだ 場所だ。

 「これ、やっぱり変じゃないかな? 絶対、僕には似合わないだろう……」

 慣れない服装に戸惑う。

 (ただ)でさえ、魅力的な結姫の隣を歩くには不釣り合いなルックスなのに……。

 店員さんの「身長が高いですから、よくお似合いです。身体が細いですから、少しタオルを入れれば、もっと似合いますよ」というお世辞らしい言葉に任せ、着せ替えられていく。

 結姫より早く着替え終わったな。

 この後のルートを再確認して待つか。無駄は省いて、一杯楽しませたい。

 すると――

 「――惺くん、どうかな?」

 レトロモダンな着物へ身を包んだ結姫が、おずおずと僕の前に歩いてきた。

 凄く、綺麗だ……。派手じゃない着物だからこそ、結姫の可愛さが際立ってる。

 いつかの江ノ島で写真を撮ってくれた、お兄さんの写真みたいだな。

 よく見れば見るほど、新しい発見と魅力があって……。

 見とれすぎて、言葉を失っちゃう。

 「あの……。黙られると、ちょっと私も困っちゃうんだけど?」

 「あ、ああ。その、言葉が出ないぐらい似合ってるよ。着物姿、初めて見たからさ」

 「う、うん。私も七五三の時に撮ってもらった写真以来だから……。あははっ。物心ついてから慣れない服を着ると、何か照れるね?」

 恥ずかしそうに口元を(ほころ)ばせる姿も、輝いて見える。

 いつかの時代に存在した姫様の、お忍び姿だと聞いても疑わないと思う。

 「これで一緒に街を散策かぁ。私から言いだしたけど、慣れるのに時間かかりそう」

 「気持ちは分かる」

 「惺くんは背が高いから、似合ってていいじゃん! ずるい!」

 隣に立つのを認められるように、僕は仕上がってるらしい。結姫の中でだけは。

 それなら、よし。もう恥ずかしくない。恥ずかしくないというか、どうでもいい。

 結姫がいいなら、僕はそれでいいんだ。

 「じゃあ、早速だけど行こうか?」

 「う、うん。(つまず)いたら、支えてね」

 「もちろん。結姫の代わりに自分が転ぼうと、必ず助けるよ」

 「大袈裟! 自分も転ばないで、普通に助けてね!」

 荷物と服を店に預け、僕たちは着物姿で鎌倉の街へ繰り出した――。