週末。

 僕と結姫は狭山市駅から、神奈川県藤沢市にある(しち)()()(はま)(かい)(がん)駅へとやってきた。

 「テレビでしか見られなかった江ノ電、最高だった! 走ってる姿も写真撮りたい!」

 「うん、いいと思うよ。多分、海岸沿いで撮れるんじゃないかな?」

 「凄いよね~。家と家の隙間を走ってたんだよ!?」

 「この後、また乗れるよ」

 テンション高く飛び跳ねる結姫を見てると、安心する。

 一緒にいない時は……今は笑えてるのかなって、不安で一杯だから。

 「よし、それじゃあ憧れのセリフ言っちゃうよ!? 海だぁあああ!」

 海に来て、これを叫んでみたかったのか。確かに、定番な気がする。

 江ノ島で見たのと、海岸の浜辺から見る海は違う。波の高さの一つ一つの個性。

 足を取られて進まない浜辺に、靴の隙間から入り込む砂。

 これは体験しないと分からない新鮮さだな。

 「浜辺って面白いね! 波で()れた砂、一瞬で乾いちゃうんだよ!?」

 「へぇ、そうなんだ。面白いね、乾く時間とかは見てなかったなぁ」

 裾を(めく)り足だけでもと海に入っていくけど、大きな波で結姫はバッチリ濡れてる。

 それすら「うぉおおお! 濡れたぁあああ!」なんて騒いで楽しんでるから、ここを行き先にチョイスしたのは正解だったんだろう。

 まだ朝なのに暑いけど、こんな元気で楽しそうな姿を見られて良かった。

 「惺くん! 服からスーパーの鮮魚コーナーの香りがする!」

 「鮮魚コーナーに並んでるのも、同じ海から取れた魚介類だからじゃないかな?」

 「そっか! つまり私は、産地に来てるわけだ!」

 「それは入荷してる魚介類によると思う」

 テンション高く全力で楽しむ結姫を見てると、アホな言動もあって飽きない。

 一人でも走り回って、自由にできる時間を本気で楽しんでる。

 とはいえ、だ。朝早く家を出たから、お腹も空いた頃だろう。

 「結姫、そろそろ移動する?」

 「お、次の場所だね! 行く行く! また江ノ電だ~!」

 ご機嫌そうに駅へ駆けていく結姫を見ると、心底から安心する――。