輝明と接する様子は、どう見てもお似合いのカップルだった。
目の当たりにしてから、やっと気持ちに気が付くものなのか……。辛い。
余命を渡してこの世を去るつもりなのに、こんな感情を抱いてしまうなんて……。
「昔から私が病気で辛い時、死んじゃいそうな時もさ……。一回も離れず傍にいてくれたのは、惺くんだからね?」
凄く哀しそうな表情……。本当に、ごめん。
物心ついた時から一緒の幼馴染みが自己否定ばっかりとか、悲しいよね。
「私は未練を残さない。自分の気持ちに正直に生きたいんだ。……だから、そんな寂しいことを自虐的に言わないでほしいな」
「……僕は、その生き方を全力で応援するよ。結姫の幸せを、全力で」
結姫の未練を残さないという生き方を、さ。
僕の恋愛感情なんて、結姫の命の前にはどうでもいい。
僕は結姫の最期を見届けた唯一の幼馴染みというだけで、充分。
分不相応な想いなんか、秘めたまま……。
結姫の幸せを願って、この世を去るべきなんだ。
「あ……。ごめん、説教っぽくなっちゃった。もう少し言い方があるよね! いや~私も気を付けないと。お互い反省ってことで、はい! この話は終わり。美味しくご飯食べよう!」
無理やりつくった笑みを浮かべ、結姫は自分の弁当を開く。
結姫が望むなら、僕は希望に応えたい。
両親の期待も何もかも裏切り続けた僕だけど……。
最後に残ってくれた結姫の期待にだけは、何としても応えたいんだ。
どうにかして、結姫が笑顔になることをしないとな。
「そうだ、結姫。今度の三連休は予定ある?」
「ないよ? 何で?」
「おかずとか、ケーキとか作ってもらったからさ。お礼がしたいんだ。合格祝いもしたいし、遊びに行くのもいいかなって」
「行く、絶対に行きたい!」
即答か。相当、受験勉強のストレスが溜まってたんだな。
未練を残さないためにも、結姫は遊んでおきたい心境だろう。
これは僕も気合いを入れて笑顔にできるように頑張って計画を立てないとだな。
「結姫はどこに行きたいとかある? 僕は結姫の行きたい場所に行きたいんだけど」
「どこにでも行きたい!」
ノープランか。
目をキラキラ輝かせて、無邪気だな……。絶対に守りたくなる笑顔が堪らないよ。
「分かった。そうだろうなとは思ってたよ。明日か明後日までに、近場じゃなく新鮮な気持ちで遊べるとこを調べておくから」
「やった、今まで行けなかったとこ!? さすが私から離れなかった理解者だね!」
僕が、理解者?
それは買いかぶりすぎだろう。
いつも結姫を怒らせたり、哀しませたりばっかりじゃないか。
僕が唯一、誰にも負けないものがあるとしたら……。
それは、結姫を笑顔にしたい気持ちだけだ。
ふと、父さんが昔教えてくれた『何かを求めるなら、頑張るだけじゃダメだ。結果や対価を、しっかり残せるのか?』という言葉が、脳内に木霊した。
幼い頃に言われた言葉なのに、まるで呪いみたく僕の魂を焦燥へ駆り立てる。
そうだ、無償の対価を期待するな。気持ちや頑張るだけじゃダメなんだ……。
僕は、結姫を最高の笑顔にするという結果を残さなければいけない。
カササギに対価を示し、契約を延長してもらうって使命がある――。
バイト帰り、早速だけど近くのコンビニで旅行系の雑誌を買い漁った。
家に戻るなり結姫が経験できなかったり、面白いと感じそうなページを探す。
スマホも駆使して情報収集だ。
思い出せ、結姫が「やってみたい」、「行ってみたい」と言ったことのある場所を。
多分、今の結姫は一つの場所に長くいるより、色々と歩き回りたいだろう。
ずっと動くのを制限されてたんだから。
そう絞って調べると――。
「――あ。これ、良さそう」
思いついたプランを、早速メモ帳に纏めてみる。
乗り換えの時間、移動の時間を書き出して……。うん、いけるな。
早速、書き出した案を結姫に送ると、スタンプが連続で送られてきた。
テンションが高いようで何よりだ。
お気に召したらしい。
一旦、スタンプの流れが止まり
『これもやろうよ!』
と、URLリンク付きでメッセージがきた。
開いてみて、少し顔が歪んだのが自分でも分かる。
『まさか、これ僕もやるの?』
『当然でしょ? 私一人だと、寂しいじゃん』
結姫がそう言うなら、僕に断れるはずもない。
ふぅ、覚悟を決めるか……。
追加された分、メモ帳に書いてた予定を少し調整し直す。
『了解。じゃあ、詳しい集合時間とか、乗り換えの案内スクショして送るね』
予定もスクショして伝えると、結姫は幸せそうなスタンプを大量に送ってきた。
これで当日は、結姫も最高の輝きを見せてくれるだろう。
肩の荷が少し下りた気分だ。
ほうっと、思わず安堵の息が出ちゃうな……。
「結姫の望むこと、僕にできることは全てやらないと」
コンビニのウィンドウへ映る顔が目に入ると――見たことないぐらい強ばってた。
そうか。僕は、人生で一番焦ってるのかもしれない。もう、猶予がないんだから。
僕から結姫に渡された寿命は、一年。
下手をしたら、残りたった一ヶ月で結姫は――この世を去って、天の川を形作る星の一つになってしまう。
結姫の笑顔が、永遠に失われるんじゃないか?
また結姫は、死の淵を彷徨い苦しい思いをする羽目になるんじゃないか?
そんな不安が、どうしても拭えない。
頭の中では常に時計の針が動いてて……。
もし最悪の結果が起きたらと、どうしても心が落ち着かないんだ――。
目の当たりにしてから、やっと気持ちに気が付くものなのか……。辛い。
余命を渡してこの世を去るつもりなのに、こんな感情を抱いてしまうなんて……。
「昔から私が病気で辛い時、死んじゃいそうな時もさ……。一回も離れず傍にいてくれたのは、惺くんだからね?」
凄く哀しそうな表情……。本当に、ごめん。
物心ついた時から一緒の幼馴染みが自己否定ばっかりとか、悲しいよね。
「私は未練を残さない。自分の気持ちに正直に生きたいんだ。……だから、そんな寂しいことを自虐的に言わないでほしいな」
「……僕は、その生き方を全力で応援するよ。結姫の幸せを、全力で」
結姫の未練を残さないという生き方を、さ。
僕の恋愛感情なんて、結姫の命の前にはどうでもいい。
僕は結姫の最期を見届けた唯一の幼馴染みというだけで、充分。
分不相応な想いなんか、秘めたまま……。
結姫の幸せを願って、この世を去るべきなんだ。
「あ……。ごめん、説教っぽくなっちゃった。もう少し言い方があるよね! いや~私も気を付けないと。お互い反省ってことで、はい! この話は終わり。美味しくご飯食べよう!」
無理やりつくった笑みを浮かべ、結姫は自分の弁当を開く。
結姫が望むなら、僕は希望に応えたい。
両親の期待も何もかも裏切り続けた僕だけど……。
最後に残ってくれた結姫の期待にだけは、何としても応えたいんだ。
どうにかして、結姫が笑顔になることをしないとな。
「そうだ、結姫。今度の三連休は予定ある?」
「ないよ? 何で?」
「おかずとか、ケーキとか作ってもらったからさ。お礼がしたいんだ。合格祝いもしたいし、遊びに行くのもいいかなって」
「行く、絶対に行きたい!」
即答か。相当、受験勉強のストレスが溜まってたんだな。
未練を残さないためにも、結姫は遊んでおきたい心境だろう。
これは僕も気合いを入れて笑顔にできるように頑張って計画を立てないとだな。
「結姫はどこに行きたいとかある? 僕は結姫の行きたい場所に行きたいんだけど」
「どこにでも行きたい!」
ノープランか。
目をキラキラ輝かせて、無邪気だな……。絶対に守りたくなる笑顔が堪らないよ。
「分かった。そうだろうなとは思ってたよ。明日か明後日までに、近場じゃなく新鮮な気持ちで遊べるとこを調べておくから」
「やった、今まで行けなかったとこ!? さすが私から離れなかった理解者だね!」
僕が、理解者?
それは買いかぶりすぎだろう。
いつも結姫を怒らせたり、哀しませたりばっかりじゃないか。
僕が唯一、誰にも負けないものがあるとしたら……。
それは、結姫を笑顔にしたい気持ちだけだ。
ふと、父さんが昔教えてくれた『何かを求めるなら、頑張るだけじゃダメだ。結果や対価を、しっかり残せるのか?』という言葉が、脳内に木霊した。
幼い頃に言われた言葉なのに、まるで呪いみたく僕の魂を焦燥へ駆り立てる。
そうだ、無償の対価を期待するな。気持ちや頑張るだけじゃダメなんだ……。
僕は、結姫を最高の笑顔にするという結果を残さなければいけない。
カササギに対価を示し、契約を延長してもらうって使命がある――。
バイト帰り、早速だけど近くのコンビニで旅行系の雑誌を買い漁った。
家に戻るなり結姫が経験できなかったり、面白いと感じそうなページを探す。
スマホも駆使して情報収集だ。
思い出せ、結姫が「やってみたい」、「行ってみたい」と言ったことのある場所を。
多分、今の結姫は一つの場所に長くいるより、色々と歩き回りたいだろう。
ずっと動くのを制限されてたんだから。
そう絞って調べると――。
「――あ。これ、良さそう」
思いついたプランを、早速メモ帳に纏めてみる。
乗り換えの時間、移動の時間を書き出して……。うん、いけるな。
早速、書き出した案を結姫に送ると、スタンプが連続で送られてきた。
テンションが高いようで何よりだ。
お気に召したらしい。
一旦、スタンプの流れが止まり
『これもやろうよ!』
と、URLリンク付きでメッセージがきた。
開いてみて、少し顔が歪んだのが自分でも分かる。
『まさか、これ僕もやるの?』
『当然でしょ? 私一人だと、寂しいじゃん』
結姫がそう言うなら、僕に断れるはずもない。
ふぅ、覚悟を決めるか……。
追加された分、メモ帳に書いてた予定を少し調整し直す。
『了解。じゃあ、詳しい集合時間とか、乗り換えの案内スクショして送るね』
予定もスクショして伝えると、結姫は幸せそうなスタンプを大量に送ってきた。
これで当日は、結姫も最高の輝きを見せてくれるだろう。
肩の荷が少し下りた気分だ。
ほうっと、思わず安堵の息が出ちゃうな……。
「結姫の望むこと、僕にできることは全てやらないと」
コンビニのウィンドウへ映る顔が目に入ると――見たことないぐらい強ばってた。
そうか。僕は、人生で一番焦ってるのかもしれない。もう、猶予がないんだから。
僕から結姫に渡された寿命は、一年。
下手をしたら、残りたった一ヶ月で結姫は――この世を去って、天の川を形作る星の一つになってしまう。
結姫の笑顔が、永遠に失われるんじゃないか?
また結姫は、死の淵を彷徨い苦しい思いをする羽目になるんじゃないか?
そんな不安が、どうしても拭えない。
頭の中では常に時計の針が動いてて……。
もし最悪の結果が起きたらと、どうしても心が落ち着かないんだ――。