体育館裏、ちょっとした階段が昼休みの定位置だ。

 そこで結姫は――

 「――はい、これ。あの、感想は素直に教えてね? 遠慮なく、それでいて私が傷付かない範囲でちゃんと……」

 「うん。おすそ分け、ありがとう」

 手作りのおかずを渡して、誰かに食べてもらう。

 これも今の結姫が、やりたいことなのかもしれないな。

 「あのさ……。僕からも聞いていい?」

 「え、何!? 苦手なものあったっけ!?」

 「違うよ。今さ、嫌じゃない? 僕と一緒にいて楽しい? 何で、僕に構うの?」

 「……は?」

 結姫には新しく、お似合いの友達ができてるのに。

 きっと、お似合いの友達と過ごした方がカササギが望む笑顔にもなれる。

 結姫には、絶対に生き残ってほしいんだ。

 「結姫は、念願の高校生活を手に入れたじゃん。他の相応しい人と一緒にいた方が、楽しく笑って生活できるだろうにって。凛奈ちゃんとか、あと……輝明くん、とか」

 「輝明先輩といるのも楽しいよ。すっごくね」

 ズキッと、胸が痛んだ。

 何で輝明の名前が結姫の口から出ると(うず)くんだろう。

 結姫の言葉で輝明と一緒にいるのが楽しいと聞くと、心が(きし)む。

 まさか――僕は嫉妬してるのか?

 結姫は僕に言われた意味がのみ込めないのか、ポカンとして眉をひそめた。

 「もしかして、焼きもち?」

 「い、いや。違うよ!」

 「本当に~?」

 「……本当に」

 胸が痛むのは――嘘をついちゃったからかな。

 言えないよ、本当の気持ちなんてさ。

 ただ、一部本音を混ぜるなら……。

 「僕は結姫が楽しそうなのが一番だから。ただ、何というか……。僕より輝明と一緒にいる姿の方が、お似合いだったからさ」

 「そういう自分を否定するようなこと、言わないの!」

 「……ごめん」

 昔、親から与えられた本で読んだことがある。

 確か――『人は誰かにされたようにしか、人を愛せない』って言葉だ。

 だからかな、僕には恋愛って感情が分からなかった。

 僕はずっと、恋愛を知らないで最期を迎えると思ったのに……。

 我ながら、単純だ。

 今、自覚しちゃったよ……。

 結姫が輝明とお似合いと言われて否定しなかったのが――嫌だった。

 喉に引っかかるような異物感を感じる。

 ああ……。

 ずっと兄妹のような存在だと思ってたのにな。

 分不相応だなんて、理解してるのに……。

 嫉妬心をきっかけに、自覚してしまった。