徐々に暑くなってきた六月。
衣替えをしたばかりの頃は少し朝が寒かったけど、今は一日中服の隙間から入り込む初夏の風が気持ちいい。
新入生も、それなりに学校生活へ慣れ始めたらしい。
でも……僕は困った状況に陥ってる。
本当に、どうしたらいいのか――
「――惺くん! お昼休みだよ! 行こう!」
結姫が毎日のように一緒に弁当を食べようとしてくる現状を……。
新しい友達、相応しい人と過ごすべきなのにな……。
高校生の男女で一緒にお弁当を食べる関係なんて誤解を生んじゃうよ。
そう指摘すると、結姫は怒る。
最初は堂々と上級生クラスへ乗り込んでくる結姫に驚いてたクラスメイトも、今では慣れたのか「不釣り合い」とでも言いたげな視線を送ってくる。
結姫に引き連れられた凛奈ちゃんも、忌々しげに僕を睨みつける。
もう、定番の光景になってきた。
二人は同じクラスになったらしいからな。
結姫が強引に手を引く姿が目に浮かぶようだ。
「今日はね、ただの卵焼きじゃないんだよ! だし巻き卵に挑戦してみたの!」
「よく頑張ったね。とりあえず、いつも通り体育館裏に移動しよっか」
「うん! 味の感想、ちゃんと遠慮なく教えてね?」
ずっと料理をやりたくても、病気の関係で満足にできなかった反動かな。
自分で作った弁当を一人で食べるんじゃなくて、大切な結姫と食べられるのは安心するし、感謝もする。
だけど、な……。
周囲の反応とかを見るに結姫の今後のために良くないから止めたいけど、嬉しそうに笑う顔を見れば止められない。
「……優柔不断」
心を見透かしたような凛奈ちゃんの呟いた言葉に、返す言葉もないよ……。
「お、結姫ちゃんに凛奈ちゃん! 今日も二年の校舎に来たんだな」
「あ、輝明先輩だ! やっほ~!」
「高橋先輩、どもです」
「結姫ちゃんは今日も明るいね~。昔みたいに戻れて、俺も嬉しいよ」
輝明が――結姫の頭に手を置いた。
胸が、もやつく……。
何で、僕は目が離せないんだ?
「もう~。子供扱いしないで! 私も高校生なんだよ!?」
「ははっ。ごめん、丁度置きやすいところに頭があったからさ」
「また私をチビ扱いした!?」
ぶんっと頭を動かし、結姫は輝明の手を頭から振り払った。
またって、何?
僕の知らないところで、輝明とこんな風に触れ合ってたの?
いや、落ち着け……。
こんな触れあい、小学校の頃からあっただろう。
それなのに、何で僕の胸は――こんなに締め付けられてるんだ?
「惺くん、もう行こう!」
「……うん」
本気では、結姫は輝明に対して怒ってない。
微笑む結姫がスキップしてるのは、いつものことだ。
だけど心なしかいつもより楽しそうに見えるのは、僕の錯覚か?
「どう、凛奈ちゃんは俺たちと一緒に食べてく?」
「いや、教室に友達を待たせてるんで……。私は、いつも通りここまでで」
「あぁ~、そっか。あんさ……。何も、威圧するために毎日ここまで来なくても……」
「別に、そんなんじゃ……。いや、何でもないです」
結姫を追う僕の後ろから、凛奈ちゃんと輝明の会話が聞こえる。
僕がいるときには、輝明も話しかけてこない。
チラッと視線を向けるぐらいだ。昔のような肉体的スキンシップなんて僕にはない。
まぁ、そんなものだろう。
これも、自分がやってきたことの結果でしかない。
自分が裏切り放置したツケを支払ってると思えば、仕方ないことだと心も痛まない。
この暗く痛む心は、別の何かだ。
大丈夫。
結姫を笑顔にできるよう話してれば、痛みも消えるはずだ――。
衣替えをしたばかりの頃は少し朝が寒かったけど、今は一日中服の隙間から入り込む初夏の風が気持ちいい。
新入生も、それなりに学校生活へ慣れ始めたらしい。
でも……僕は困った状況に陥ってる。
本当に、どうしたらいいのか――
「――惺くん! お昼休みだよ! 行こう!」
結姫が毎日のように一緒に弁当を食べようとしてくる現状を……。
新しい友達、相応しい人と過ごすべきなのにな……。
高校生の男女で一緒にお弁当を食べる関係なんて誤解を生んじゃうよ。
そう指摘すると、結姫は怒る。
最初は堂々と上級生クラスへ乗り込んでくる結姫に驚いてたクラスメイトも、今では慣れたのか「不釣り合い」とでも言いたげな視線を送ってくる。
結姫に引き連れられた凛奈ちゃんも、忌々しげに僕を睨みつける。
もう、定番の光景になってきた。
二人は同じクラスになったらしいからな。
結姫が強引に手を引く姿が目に浮かぶようだ。
「今日はね、ただの卵焼きじゃないんだよ! だし巻き卵に挑戦してみたの!」
「よく頑張ったね。とりあえず、いつも通り体育館裏に移動しよっか」
「うん! 味の感想、ちゃんと遠慮なく教えてね?」
ずっと料理をやりたくても、病気の関係で満足にできなかった反動かな。
自分で作った弁当を一人で食べるんじゃなくて、大切な結姫と食べられるのは安心するし、感謝もする。
だけど、な……。
周囲の反応とかを見るに結姫の今後のために良くないから止めたいけど、嬉しそうに笑う顔を見れば止められない。
「……優柔不断」
心を見透かしたような凛奈ちゃんの呟いた言葉に、返す言葉もないよ……。
「お、結姫ちゃんに凛奈ちゃん! 今日も二年の校舎に来たんだな」
「あ、輝明先輩だ! やっほ~!」
「高橋先輩、どもです」
「結姫ちゃんは今日も明るいね~。昔みたいに戻れて、俺も嬉しいよ」
輝明が――結姫の頭に手を置いた。
胸が、もやつく……。
何で、僕は目が離せないんだ?
「もう~。子供扱いしないで! 私も高校生なんだよ!?」
「ははっ。ごめん、丁度置きやすいところに頭があったからさ」
「また私をチビ扱いした!?」
ぶんっと頭を動かし、結姫は輝明の手を頭から振り払った。
またって、何?
僕の知らないところで、輝明とこんな風に触れ合ってたの?
いや、落ち着け……。
こんな触れあい、小学校の頃からあっただろう。
それなのに、何で僕の胸は――こんなに締め付けられてるんだ?
「惺くん、もう行こう!」
「……うん」
本気では、結姫は輝明に対して怒ってない。
微笑む結姫がスキップしてるのは、いつものことだ。
だけど心なしかいつもより楽しそうに見えるのは、僕の錯覚か?
「どう、凛奈ちゃんは俺たちと一緒に食べてく?」
「いや、教室に友達を待たせてるんで……。私は、いつも通りここまでで」
「あぁ~、そっか。あんさ……。何も、威圧するために毎日ここまで来なくても……」
「別に、そんなんじゃ……。いや、何でもないです」
結姫を追う僕の後ろから、凛奈ちゃんと輝明の会話が聞こえる。
僕がいるときには、輝明も話しかけてこない。
チラッと視線を向けるぐらいだ。昔のような肉体的スキンシップなんて僕にはない。
まぁ、そんなものだろう。
これも、自分がやってきたことの結果でしかない。
自分が裏切り放置したツケを支払ってると思えば、仕方ないことだと心も痛まない。
この暗く痛む心は、別の何かだ。
大丈夫。
結姫を笑顔にできるよう話してれば、痛みも消えるはずだ――。